社外取締役座談会

多様な専門性・経験を生かして取締役会の実効性を高めステークホルダーの期待に応えていきます

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企業価値向上に向けたさらなるガバナンス改革の推進

[画像]社外取締役の皆さん

取締役会議長とCEOを分離し、それぞれの役割を明確化した新たな経営体制の下で、当社のガバナンスがどのように進展したか。企業価値向上に向けて取締役会が果たすべき役割を含め、社外取締役の皆さんに語っていただきました。

ガバナンスの進化

新たな経営体制の下で1年が経過しました。 取締役会の運営や審議における変化はありますか?

北村 当社は昨年、CEOと取締役会議長の役割を分離しました。CEOは実質的には最高執行責任者であり、監督機能を持つ取締役会の議長と役割を分離することは、ガバナンス進化の方向性に沿った取り組みといえます。しかしながら、それが名目だけの分離では意味がありません。当社は、ガバナンス強化のための議論をさらに活発化させていく、という助野議長の取締役会運営指針に基づき、審議内容がより充実した印象を持っています。取締役会では、脱炭素への取り組みやDX戦略など、中長期の方向性に関するテーマにより多くの時間を割くようになってきました。また、主要なM&A案件についても、検討初期の段階から取締役会で報告されています。各議案についても、取締役会に上程される前の社内での討議内容も共有されるため、取締役会での実質的な議論が深まっていますね。

江田 M&A案件ではPMIの状況や投資前の予測との乖離に対する分析についても報告があります。また、進行中の案件の途中経過など必ずしも現時点で明確な結論を伴わない場合でも、状況報告が行われます。こうした報告は、社内での議論のコンテクストが得られやすく、かつそれを踏まえた判断が可能になるため、監督機能の一層の強化にもつながっていると思います。社外取締役の要望事項が取締役会の運営に反映され、成果につながっていることを実感しますね。

北村 事業説明会や事業場視察、当社事業に関連するアナリストレポートの共有など、取締役会事務局のサポートもより充実してきました。昨年はコロナ禍で制約を受けていた事業場視察も再開され、今年の4月にはイメージングの事業拠点である大宮事業場を訪問しました。イメージングは、顧客に「楽しさ」を提供するという機能を持つ事業なので、そこで働いている人たちからも「楽しさ」を感じました。製品・サービスを生み出す現場の良い雰囲気が印象に残りました。コロナ禍のため、この1年間では大宮事業場のみとなりましたが、ぜひ事業場見学は続けていきたいですね。現場の人の話を直接聞くと、会社の潜在力を実感することができます。

江田 事業説明会の実施回数も増え、各事業の課題や長期戦略などを執行役員や部門長から直接聞くことで理解が深まるとともに、取締役会での当該事業関連議案の審議にあたって非常に実感をもって活発な議論が行えます。また、大宮事業場見学では、さまざまな製品の担当者たちの情熱が伝わってきて、私も楽しかったです。現場の訪問は、普段私たちが接する役員の方々から感じられるトーンと現場の人たちの感覚との乖離がどのくらいあるかをうかがい知る機会にもなります。役員から現場の従業員まで事業への意識を共有するというのは難しいものですが、当社はその点、両者の意識が非常に近いと思っています。キャリア採用者も多いし、M&Aにより新たな血が入ってくることも多いため、当社の優れたDNAを大切にしながら、時代の流れとともに事業をアップデートしていくことが課題になると思います。

指名報酬委員会の審議内容について教えてください。

北村 指名報酬委員会での審議を経て、役員報酬にESG指標として「CO2排出削減目標に対する達成率」を反映することを、今年の3月の取締役会で決議しました。指名報酬委員会で議論を開始した際、国内においてESG関連の非財務指標の導入事例は少なく、日経500構成銘柄では66社のみ、さらにCO2排出量に係る指標は11社のみという状況で、当社が先行的に導入することの是非が論点の一つでした。中長期的な企業価値向上に向けてESGが重要な経営課題であるという社内外の認識が高まる中、当社の取り組みの客観性・透明性を担保する上でも、脱炭素目標に対する成果を役員報酬に連動させることがやはり重要だという結論に達しました。また、社会課題に対する当社の感度の高さを示す上でも、意義は大きかったのではないでしょうか。

[画像]北村 邦太郎 氏
北村 邦太郎 氏

三井住友信託銀行株式会社 特別顧問
アサガミ株式会社 社外取締役

取締役会の実効性

当社のガバナンスの在り方をどのようにご覧になっていますか?

永野 日本企業は現在、コーポレートガバナンス・コードや資本市場からの声などのさまざまな外圧の中で、あらゆるステークホルダーに配慮した経営をすることが求められています。言い換えれば、かつてに比べて経営の自由度は制限されつつあり、野性味のある企業経営がしにくい環境になっていると感じます。当社はそのような中でも、自律自制の文化を強みとして、事業構造の転換を伴う自己変革を成し遂げました。自分たちの文化をベースに、従業員一人ひとりの力を束ねて経営した結果であり、外形的にガバナンス体制を整えたから成し遂げることができたわけではありません。やはりガバナンスを向上させる基本は、議長やCEOがどのように当社の取締役会を運営したいか、ガバナンスを経営にどう生かしていきたいのかという点に尽きると思います。以前、助野議長から「議長の重要な仕事は取締役会でフリーなディスカッションをできるだけ活発化させること。会議に際しては空気を読まずに議案を読め、と社内でも言っている」また「富士フイルムの常識が世間の常識から乖離してはいないかを、社外取締役の知恵や力を借りながら確認していく。多様性を取り込んで経営に生かしたい」との発言もあり、取締役会を運営していく議長の意思がはっきりと伝えられています。

これまでのご経験を踏まえ、取締役会の実効性向上に向けた提言を聞かせてください。

永野 私の経験からいえば、社外と社内の取締役は合わせ鏡のようなもので、互いの実力以上のことは出てきません。したがって、あらゆる情報を共有して社外から何でも意見を言ってもらい、その中で、経営を強化するために必要な、社内にはなかった視点を執行側が取り入れていく、またそうした雰囲気をつくっていくことがとても大事だと感じています。実効性の向上に向けて社外取締役に求められる役割は二つあります。一つは社内にない視点から個別のテーマについて意見を言い、経営の中に反映させていくこと。もう一つは、当社が持続的成長のサイクルをしっかりと回せているか、すなわち組織に浸透した価値観、企業理念やパーパスに基づく文化を基点に、従業員が生き生きと会社の目的に従って行動し、顧客の支持を得て企業の成長につなげられているかを、さまざまな角度から論議していくことだと考えます。

菅原 古森前CEO体制からバトンを受け継いだ新体制は今、当社なりの取締役会の在り方を確立していく途上にあると拝察しています。実際、取締役会の実効性向上に向けてはどの企業も模索しています。私が知っている他社の事例では、取締役会で議論すべきテーマの見直しを図り、個別の事項は事前説明や書面決議を可能な限り活用することで、中長期での技術動向や環境問題、地政学上のリスクなど、より大局的な議論により多くの時間を割くように工夫しているケースもあります。こうしたテーマであればこそ、社外の経験や知識、ネットワークが生かされ、執行に反映させることの意義が高まります。

また私は、取締役会での社外取締役の指摘や執行側との議論の内容を、当該案件を担当する従業員に共有することも重要と考えます。執行のトップと社外取締役の間だけで意気投合しても、あまり意味はありません。社外の人たちが自分たちのテーマに対してどのような認識・意見を持っているのかを執行に携わるさまざまな階層の従業員に知ってもらう機会として、事前説明や事業説明会の場などを活用することも有効でしょう。先ほど永野さんから、「情報を全て共有する」とありましたが、情報の出所を役員に限る必要はなく、いろいろな階層の従業員からも共有されるような工夫をすると、双方にとってより意義があるものになると思います。大きな組織になればなるほど、上層部と現場とが描く実像に乖離が生じやすいものです。もし経営と現場との意識のずれが、経営上の弱点になりうると感じれば、その懸念を執行側に共有することで新しい好循環が生まれるきっかけにもなります。当社においても、今後そうした役割を果たしていければと思っています。

[画像]菅原 郁郎 氏
菅原 郁郎 氏

元 経済産業省事務次官
トヨタ自動車株式会社 社外取締役
株式会社日立製作所 社外取締役

中期経営計画の進捗

中期経営計画「VISION2023」の進捗状況をどうご覧になっていますか? 今後の課題も聞かせてください。

北村 「VISION2023」初年度の2021年度は、主要なKPIを全て達成して非常に順調なスタートとなりました。放射性医薬品事業の売却による事業の新陳代謝も図りながら、近年の積極的な成長投資の成果としてヘルスケアが最大セグメントになるなど、事業ポートフォリオマネジメントの視点では、中核事業の創出・育成・高収益化を達成しつつあると見ています。

江田 中期計画の進捗は順調で、事業ポートフォリオの入れ替えも、勇気ある意思決定がスピード感をもってなされており、それが当社の成長につながっていると評価しています。一方、グローバルな事業環境は地政学的なリスクの高まりを背景に、一瞬にして先行きが見えなくなるリスクも孕んでいます。先行きが不透明な中で、想定外の見直しが迫られるような場面でも、どれだけ勇気ある意思決定を機動的に進めていけるかが今後のチャレンジになるでしょう。

北村 健康や生命に直接関わるヘルスケアへの注力は、当社の企業理念や存在意義に照らしても理解しやすく有意義ですが、健康・生命に直結するからこそ「万が一のこと」が許されない分野でもあり、今後も絶対的な安全を追求し続けることが課題です。また、当社の従業員は自律・自発的な貢献意欲が非常に強いという大きな強みがありますが、こうした人材のエンゲージメントを今後も維持・向上させていくための努力が継続して必要だと考えます。

永野 昨今はVUCAの時代であり、従来のように経済面にフォーカスしていれば良かった経営環境ではなく、地政学リスクも含めた経営判断が求められます。平時においてもリスクが顕在化したときのワーストシナリオを常に念頭に、打ち手を考えていくことが大事です。また、当社については、事業は十分グローバル展開を果たしているので、今後は世界に点在するグループ各社の従業員それぞれの力をさらに一体的に活用し、経営のグローバル化に結びつけていくところに、さらなる伸びしろがあると感じています。

菅原 中期計画の進捗評価では、最初に立てた目標や計画をどの程度達成したかどうかに議論が集中しやすいのですが、私がそれと同じくらい重視しているのは、「本来、目標または計画として立てるべき事項だったのだが、それが認識できていなかったものはないか」という視点です。時間は巻き戻せませんから、やらなかったがために競合他社や世の中に後れを取ることは、企業の将来に甚大な影響を及ぼすリスクといえます。皆さんも挙げられたリスク要因や、新たな技術の急速な普及などを背景にして、投資の時機を逸していないか、未着手の研究開発テーマなどがないか、社内からの視点だけでは気づきにくいところもあると思いますので、そこをしっかりと押さえて長期ビジョンの策定や次期中計に織り込めるよう、貢献していきたいと思います。

[画像]永野 毅 氏
永野 毅 氏

東京海上ホールディングス株式会社 取締役会長
セイコーホールディングス株式会社 社外取締役
東海旅客鉄道株式会社 社外取締役

さらなるガバナンスの強化に向けて

社外取締役として、どのような貢献をしていきたいと考えていますか。

江田 私が社外取締役を務めてきたこの4年間でも、当社の変革は目に見えて進展しており、私は当社をとても良い会社だと感じています。当社に対する私自身の理解もある程度深まってきた中で、グローバルの潮流や生活者視点などからの私なりの気づきを、今後も空気を読まずに発言し、当社のさらなる成長につながるよう貢献したいと思います。

永野 当社は、外圧にもめげず我が道をしっかりと歩み見事に自己変革を成し遂げており、素晴らしいと感じています。ただ、今の時代は先が読めませんから、多様性を取り込まない手はありません。経営の意思決定に限らず、従業員の多様な意見も活用し、現有の強さをしっかり維持してほしいと思います。異なるバックグラウンドを持つ社外取締役の一人として、社内の視点では非常識なことであっても臆せず発言することで貢献したいと思います。一方で経営は、どんなに社外の人間が声を上げても、執行側がその気にならなければ強くなりません。多様な視点をどれだけ感度を持って経営に取り込んでいくか、この取締役会が生きるかどうかは、経営トップの意思一つで決まります。もう一つ、従業員もその気にならないと経営の成果は表れません。従業員にまでサステナブルな経営のサイクルがしっかりと回っているのか、企業経営者としての私の経験からしっかり見ていきたいと思います。

菅原 当社は変革に成功した企業として、日本の産業界でも評価を得ています。成長分野と位置づける各事業もそれぞれの分野で世界のリーダー的存在になりつつありますが、先頭にいるがゆえに未知の領域やリスクに他社よりも早く直面していくという点で、厳しい戦いを強いられる場面も出てくると思います。地政学リスクや技術リスク、政治リスクなど、私の持つネットワークから得られる知見や、先ほど申し上げた、やらなかったことのリスクなどを提示し、当社が柔軟に意思決定するための材料提供で貢献したいと思います。持続的な成長を見据えると、10年後、20年後に当社を支える今の若手・中堅の意識も重要ですから、意見交換の機会などを通じて、次世代を担う層にも外の風を当てる役割を果たせればと思います。

北村 社外取締役の重要な役割は、客観的に見て疑問を感じたときには指摘すること、そして日常生活においても当社事業に関連する分野は関心を持って心に留め、一消費者としての視点でも意見を述べていきたいと思います。

今後もイノベーションを通じた社会課題の解決を、“NEVER STOP”でやり遂げる当社の企業風土が保ち続けられるようにとの期待を込めて、社外取締役として貢献していきます。

[画像]江田 麻季子 氏
江田 麻季子 氏

世界経済フォーラム 日本代表
東京エレクトロン株式会社 社外取締役

* 2022年8月10日にインタビューを実施