富士フイルムホールディングス

社外取締役座談会

多様な専門性・経験を生かして取締役会の実効性を高めステークホルダーの期待に応えていきます

持続的な成長とガバナンスの強化に向けて取締役会が果たすべき役割

執行における「決定」と「監督」がより明確になった新経営体制において、急速に変化する事業環境をどのようにとらえ、どのように成長を続けるのか。各分野で豊かな経験をお持ちの社外取締役の皆さんより、多様な視点からご意見をいただきました。

6月29日の定時株主総会を経て新たな経営体制がスタートしました。社外取締役の立場から、新経営体制をどのように評価されますか?

嶋田 この1年間、取締役会では中期経営計画や事業再編に関わる議題など、大きな判断を要するテーマを議論してきました。その際に私が感じてきたのは、各部門の責任者から伝わる「気迫」です。その背景に何があるのか、前CEOの古森氏が退任される際の、取締役会での発言を聞いて腑に落ちました。「誠実、率直、明るさ」、「何でもきちっと議論をして決めたら団結してやり抜く」。「こうした風土が当社の社柄として表れており、それこそが当社の最大の強み」だということです。カリスマ経営者の決断が当社を成長させたという世の中の評価もありますが、そうした社柄を背景に育まれてきた各部門の責任者が持つ気迫こそが、当社の強みであるということですね。助野会長や後藤社長もそうした社柄を体現する人であることから、当社の今後の経営に対しても強い期待を持っています。

江田 新体制においては、取締役会の業務執行に係る「決定」と「監督」の機能が明確化されるということに、ガバナンスの観点から大きく期待しています。大きく変化する世の中において企業が長期的かつ持続的に成長するためには、経営の適切なリスクテイクが必要であり、そのためには強固なガバナンスが欠かせません。執行の「決定」と「監督」をより明確化したガバナンス体制となったことで、私たち社外取締役にとっても、外部の視点から実効的な監督を行っていくプロセスがより強化されると考えています。そうした土台の上で、さらに建設的な議論がされることによって、強固なガバナンスがより一層担保されていき、同時にイノベーションや成長がその先に見えてくるという期待を強く持っています。

CEOサクセッションにおいて指名報酬委員会の果たした役割を教えてください。

川田 指名報酬委員会では、2018年の発足以来、CEOの人材要件や経営陣の解任要件の確認に加え、CEO後継候補者リストに関わる審議を継続的に行い、準備を整えてきました。そうした中で、本年2月開催の委員会、および3月開催の取締役会を経て、新体制がスタートしました。委員長として、代表取締役就任以来20年余りにわたり経営を担ってきた古森氏の後継者を審議するというのは重責でしたが、こうしたプロセスを経て無事に大役を果たせたと考えています。

川田 達男 氏

セーレン(株)代表取締役会長

長年にわたり、総合繊維メーカーの経営者として、ビジネスモデルの転換、イノベーションの創出、組織変革を実現してきた豊富な経験と高い見識を有する。当社の指名報酬委員会の委員長を務める。

北村 従来から、委員会の重要な役割として客観性・透明性の担保を意識してきました。後継者リストに挙がる人物について個別具体的に吟味していくのは大変な作業ですが、こうしたプロセスにより、人選の恣意性を排除し、社外取締役の立場からも客観性・透明性を担保していくことができます。そういう意味で、今回のCEO決定に至るまでのプロセスにおいて、非常に適正かつ充実した議論ができたと実感しています。また、富士ゼロックス(現・富士フイルムビジネスイノベーション)の完全子会社化や、バイオCDMO事業の大型投資、日立製作所の画像診断関連事業(現・富士フイルムヘルスケア)買収などの意思決定が行われ、次への飛躍のステップを踏む時期でもあり、CEO交代はタイミングとしても良かったのではないでしょうか。

当社は4月に新たな中期経営計画(以下、中計)「VISION2023」を発表しました。中長期的な価値向上の観点から、本中計の内容をどう評価されますか?

川田 今回の中計も、前回の「VISION2019」に続いて、長期CSR計画「SVP2030」の具体的なアクションプランと位置づけられています。企業が利益などの経済的な付加価値の創出を最大の目標として、それにある程度集中すれば良かった時代は大いに過去のものとなり、現在は環境・社会などSDGs課題も背景にした経営が強く求められていますよね。利益に加え、それらの課題への取り組みを執行計画の中でしっかりと織り込んでいく必要があるわけです。当社の中計においても、そうした考え方が組み込まれているだけでなく、目標自体が非常に意欲的なものになっていると思います。そうした観点からの監督を含め、取締役会の役割もより重要になってきます。

江田 当社は、常に長期目標に向けて価値創造をしてきた会社だと思います。今回改めて、2030年の長期ゴールを持ったうえでの中期のアクションプランが設定されたことによって、当社の経営計画が周りの人にとってより分かりやすいものになりました。14の事業がある中で、それらを環境・健康・生活・働き方といった分野に分けて、課題をしっかりと説明しています。そのうえで、それらの課題が2030年の長期ゴールにどのように結びついているか、また、富士フイルムホールディングスは何をやる会社なのか、ということが多くのステークホルダーにとって見えやすくなりました。この分かりやすさが、今回の中計のとても良いポイントですね。コロナ禍もあり、今後も世の中は大きく変わっていくと思いますが、長期の視点にブレがなければ持続的な成長や価値創造が期待できると思います。また、経営計画に対する理解がより多くの人々と分かち合えていればいるほど、その効果が高いと思います。そうした意味で、今回の中計の設定の仕方を評価しています。

中計を推進するにあたっての課題は何でしょうか?

江田 富士フイルムという名前は通っていても、事業が多岐にわたっていることから、企業としての実体が分かり難くなっていたと思います。本中計の整理の仕方は、社外取締役としても分かりやすかったし、周りの人にも説明しやすい内容なので、そうした経営計画の立て付けの徹底を今後もぜひお願いしたいと思います。「富士フイルムはこういう会社です」と言うときの当社からの説明が一意に定まると、より多くのステークホルダーにとって、当社の経営方針や成長戦略がより理解しやすいものになると思います。

江田 麻季子 氏

世界経済フォーラム 日本代表

グローバル企業の経営者として、新市場の創出、グローバルな人材の育成を実現し、現職では、地域・産業などの課題に対して世界規模での改善に取り組んできた豊富な経験と高い見識を有する。

「VISION2023」の重点施策でもある、事業ポートフォリオマネジメントが実効性を持つために、どのような助言をされますか?

北村 当社は、ヘルスケア領域にかなりダイナミックに事業構造を転換してきたという意味で、事業ポートフォリオにおける進歩的な取組みをしてきたと言えます。一方で、日本企業に起こりがちなこととして、新規の投資や買収に比べて、撤退の決定が少ないということが挙げられます。その結果、戦力や資本が不足して、兵站が伸び切ってしまうということがあります。ある調査結果によれば、企業の経営側が意識するのは主に製品・サービスの高付加価値化、シェアの拡大、コスト削減といった個別事業の収益性に関することが多い。それに対して、投資家側が意識するのは投資採算性や事業の選択と集中といった点であり、経営側と投資家側の間で意識のズレが生じていると言えます。したがって、事業ポートフォリオマネジメントにおいては、こうした感覚と観点を持ちながら、株主・投資家の視点を持って議論する必要があります。

また、事業の採算性評価において、部門間の取引レートの設定や費用負担の考え方など、誰にとっても納得性のあるルールを策定するのは簡単ではありません。そうした意味で、多様な事業を持つ当社にとって、事業別の採算を把握し、ポートフォリオを議論するのはチャレンジングな課題だと思いますが、やはりそこに挑戦していくことが事業ポートフォリオマネジメントにおいては重要でしょう。

嶋田 昨年経産省から「事業再編実務指針」が公表されました。現状維持バイアスが強く、組織を横串で運営する機能が弱いという日本企業の弱点を克服し、国際的な競争力を付けるための指針と理解しています。当社は、もう20年も前から最も先進的な形で事業再編に取り組んできました。本指針は、当社のような事例も踏まえながら、国が日本全体の産業のことを考えて公表したものと言えるでしょう。

注意すべきは、当社は成長性と収益性の2軸で事業を整理していますが、その分析の前提自体が、急速なイノベーションの進化と世界全体の大きな変化の中で、あっという間に変わっていくことです。一例を挙げると、当社が事業分野とする医薬品において、1年前に米国がサプライチェーンの安全保障として特定国への依存度を下げるための規制を導入しています。半導体や5Gといった領域に並んで追加されたのが医薬品であり、こうした形で医薬品が規制対象に加わることを2年前に予測した人は誰もいなかったのではないでしょうか。このように急速に変化する環境下で、事業分析を行い、キャッシュの流れを計画した前提自体を、相当機敏に見直しながら取り組んでいかないといけません。

嶋田 隆 氏

元 経済産業省事務次官

経済産業省官房長、同省通商政策局長、同省事務次官などの要職を歴任し、世界的な産業構造の変化に対応するため、新たな産業政策や通商政策を推進してきた豊富な経験と高い見識を有する。

当社にとっての課題は何でしょうか?

嶋田 一つはイノベーションの本質が、「プロダクト・イノベーション」から「アーキテクチャー・イノベーション」に急速に変わっていく中で、当社がどのような付加価値を「アーキテクチャー・イノベーション」の中で高めていくかということです。これは、とても大きなチャレンジだと思います。

もう一つは、パンデミックやサイバーセキュリティ、米中の技術覇権など、さまざまな大きなトレンドのもと、新しい機会と脅威がともに生まれている中で、それらを見極めながら当社の経営計画やビジョンなどをどうやってアジャイルに見直していくかというところですね。私もその問題意識の投げ掛けといったところで、貢献できればと思っています。

当社は新中計の発表と併せて、新たな株式報酬制度を導入しました。当制度の導入をどのように評価されますか?

川田 指名報酬委員会の審議を経て、譲渡制限付株式報酬制度(RS)と中期業績連動型株式報酬制度(PSU)が導入されました。特にPSUについては、公表された中計をバックにして、中期的な時間軸における業績連動型の制度を導入したという点で、非常に評価できると思います。そのうえで、業績とそれに対する評価がしっかり合致して、納得性のある結果になることが大事ですね。私たちも客観性・透明性を担保するという視点から、業績評価を含む制度運用のプロセスにおいて検証していきたいと思います。

北村 従来のストックオプション制度にも業績連動の要素はありましたが、PSUについては、特に中計で定めたKPIの達成度にリンクしている点で、中期的な成長と目標達成に対するインセンティブが強化されており、より進化した制度であるととらえています。株主・投資家との利害共有が一層進み、経営の健全なリスクテイクにも資するものと考えています。

ただ、報酬制度というのは、その会社が培ってきた社風や強みを損なわないように設計する必要があると思います。業績連動型の報酬制度はそうした考え方に沿っていると思いますが、私たちも常に制度の運用状況をモニタリングしながら、必要に応じてチューニングしていくことが求められますね。

役員報酬制度に非財務KPIの反映を期待する声も上がっています。

北村 今、「カーボンニュートラルの衝撃」ということが言われています。企業会計にとって、1929年の世界大恐慌以来の変革を迫られる可能性があると言われているものです。大恐慌以前は、企業側が自主的に開示するというスタンスはあまりなかったのですが、大恐慌を経て財務的に数字を開示していくという流れが生まれました。今般の動きは、非財務的なものについて、これを外部に開示していこうという動きです。非財務面での取組みについて、どういうことをこの企業はやってきて、貢献しているのかということを伝えるのが目的です。したがって、報酬制度についても非財務KPIの反映を期待する声がさらに強くなってくる可能性がありますね。当社としても、一つの課題であると思います。

北村 邦太郎 氏

三井住友信託銀行(株)特別顧問

長年にわたり、強いリーダーシップをもって大手金融機関の経営者を務め、金融・財務・資本市場における、豊富な経験と高い見識を有する。当社の指名報酬委員会の委員を務める。

取締役会の多様性が企業価値の向上につながるためには、企業はどう取り組むべきでしょうか?

江田 当社の取締役会に参画して以来、当社の企業風土や「オープン・フェア・クリア」という根本の部分に加え、スピード感のある会社という点を実感しています。そのうえで、企業にとって役員に占める女性や外国人の数といった形式面よりも、むしろ、経験やバックグラウンドというのが最も重要なダイバーシティであり、それがあってこそ有意義な議論ができるものと思います。

嶋田 取締役会の多様性もさることながら、それ以上に大事なのは、会社の多様性だと思います。会社ごとに事業分野、人材、グローバル展開の度合いなど、全部違いますよね。全く異なる会社を組み合わせて新たなイノベーションを生み出すのであれば、会社の戦略に適合したダイバーシティの在り方というのは、会社のグループ経営の在り方と一体で見るのが望ましいと思います。

また、グローバルカンパニーとしてのガバナンスの在り方があって、それは不断に進化していくものと思います。当社の成長とガバナンスのさらなる強化に向けて、社外取締役それぞれの経験と立場から最大限の貢献をしていきます。

* 2021年8月13日にインタビューを実施