「緑の協力隊」は、富士フイルム労働組合が中国・内蒙古自治区のホルチン砂漠で毎年行っている植林活動です。13回目となる2010年は、8月1日~4日までの3日間、日本からは富士フイルム労働組合員10名と、中国現地法人である富士フイルム(中国)投資有限公司(以下FFCN)の社員13名および、FFCNが募集した中国の一般参加者3名の計26名が、一緒に汗を流しました。参加者による現地レポートをお届けいたします!
近年の急激な乾燥化でできた、北海道に匹敵する大きさの砂漠です。
ホルチン砂漠は、北海道旭川市と同じ北緯42度に位置する中国・内蒙古自治区にあり、面積もほぼ北海道と同程度の大きさがあります。日本から一番近い砂漠(国内砂丘などを除く)であり、近年、日本にも大量に飛んでくるようになった黄砂の一因にもなっている砂漠です。
ステップ気候帯で、年間降水量は500mm以下にとどまりますが、実は、30年ほど前までは砂漠ではありませんでした。放牧により家畜が草を食い尽くし、その状態のまま放置された結果、砂漠化してしまったのです。
砂漠化は、現地農民の生活を経済面・環境面で圧迫するだけでなく、黄砂の発生のように国を超えた環境被害をもたらす一因にもなっています。
富士フイルム労働組合 書記長 伊藤智(当時)
成田空港から約3時間のフライトで瀋陽(シェンヤン)に到着した。
瀋陽は、国際線の便が少なく、海外からの入出国者も少ないため、入国手続きはスムーズだった。ここから約3時間半、バスに揺られ、滞在地となる后旗(コウキ)を目指す。
途中、圧倒されたのが現地の交通事情だ。踏み切り近くの狭い道路で、大型トレーラーがあえて道をふさぐかのように、何度も切り返しをしていたことで、渋滞に巻き込まれた。
渋滞の影響は幸い小さく、后旗には、予定より約1時間程度の遅れで到着できた。一緒に緑化活動を行うFFCNの社員13名と合流し、モンゴル式歓迎会で打ち解け合った。ここでいただいた白酒(パイチュウ)は36度。強い香りが喉に残った。
明日から3日間の炎天下での緑化活動が待っている。この日は少しだけ早く床に就いた。
穴掘りとバケツリレーを繰り返し、障子松600本を植林
緑化活動1日目の午前、后旗の中心街から緑化活動を行う瓦房(カボウ)に到着。ところどころに緑はあるのに、急激に砂漠化が進行しているという。放っておくと放牧の牛や羊たちが食べ尽くしてしまうようだ。緑を守るためには柵で囲い、家畜を入れないようにすればよいのだが、現地の人たちの生活とのバランスを取らなければならない。しかし、まずはこの砂漠化を止めること。これが大事だ。
いよいよ、「障子松」を植林する。障子松は、砂の流出を防ぎ、植物の種を根付かせるために必要な防風林の役割を果たすものだ。
富士フイルムでは2008年から、この地で2ヘクタールの敷地を「富士フイルム労働組合の森」として、1,600本の障子松の植林を行っている。
今回は、2日間で1,200本の苗木を植林していく。工程は、(1)植える場所まで苗木を運ぶ、(2)シャベルで穴を掘る、(3)苗木を埋める、(4)バケツリレーで苗木の箇所に水をやる、という単純なことの繰り返しだが、600本となると結構ハードである。砂地なので歩くこと自体に体力がいる。たちまち喉がカラカラに渇き、ビールが欲しくなる。
あちこちから響く「加力(チャーヨウ)=頑張れの意」という掛け声に、私たちも合わせて声を出す。メンバーの強い一体感が生まれたように思う。
現地の方と緑地への思いを語り合いながらのポプラ剪定
2日目の午前中は、過去の緑地活動で植林したポプラの剪定作業を行った。ポプラは、障子松と同じく立派な防風林になる。剪定は、ポプラをよりよく成長させるための枝打ち作業である。
切れ味鋭いハサミで、簡単に枝打ちできる。しかし、調子に乗って続けていると、慣れない作業で手にかかる負担が意外に大きかったらしく、明らかに握力が落ちていき、夜には握力がなくなっていた。仲間も同様らしく、時々休みながらもみんな頑張っていた。
剪定の途中、村長の話を聞くことができた。「昔は、この一帯が草原だったことを鮮明に覚えている。生活するためとはいえ、自分たちがしてきた放牧が、実は砂地を増やす原因になっていた。
今は、『自分が生きているうちに、緑を戻したい』という思いがあり、日本から来てくれる人たちに感謝している」。
今回の活動の前に、私たちは、砂漠緑化・砂漠化防止を目指す現地NPO法人・緑化ネットワークの人たちと、「現地の住民が『自分たちでこの土地を守る』という思いを強くし、行動していくことこそが緑化活動の目指す姿だ」と話していた。まさに、その実現に向かっていることを感じさせる話を直接村長から聞いたときには、強い感銘を受け、体が本当に震えていた。「何のための緑化なのか」ということが、このときわずかでも分かった気がする。
昼食後は、2007年に植えた障子松の木陰で休憩した。障子松はすでに1m近くに成長しており、初めて見た自分にとっても感慨深かった。当時の参加者が見たらなおさらだろう。障子松の周囲にも草が多く茂り、緑化が進んでいることを実感できる。私たちの植えた松も、このようになるのだろうか。村長の言葉とも相まって、期待感がふくらむ。緑化活動は、物理的に緑化を進める、ということだけではない。むしろ、現地で「見ること」「動くこと」「話すこと」すべての体験を通じ、人の中で進めることにこそ、真の価値があると感じた。
次に、2002年に植えたポプラを見学した。大きく育っており、防風林としての役割を十分に果たしている。付近は立派な林だ。この地で緑化活動を始めてまだ5年目、試行錯誤していたころのポプラが大きく育っているのを見ると、励みになる。このたすきを、自分たちも渡していくのだ、という思いを新たにする。
砂の移動を抑制し、植物の種を根付かせる「草方格」作り
午後は、草方格作りだ。草方格とは、乾燥した稲のワラを利用して、約1m四方のワラを、碁盤の目のように並べて砂に埋め込んだもので、砂の移動を防ぐ効果がある。砂漠化は、砂の移動が大きな要因となるため、このような草方格を作る意義が大きい。
作業は、(1)細かいワラを取り除き、一定以上の長さのワラをそろえて束を作る、(2)ワラの束を運び、マス目状に並べる、(3)シャベルを使い、束を直立させた状態で埋め込む、という3工程だ。
このときは風が強く、眼鏡をかけていても砂がお構いなしに目に入ってくる。それでも作業は順調に進み、142マスの草方格をスムーズに作り終えた。
比較的軽作業だったはずだが、帰りの足取りは思いのほか重い。砂地を歩き続けるのは、やはり相当な体力を使うようだ。
1,200本の植林が完了。一般参加者の表彰式を開催した最終日
3日目、最後の植林活動。午前中に600本の植林を行い、一昨日の分とあわせて計1,200本を植え終えた。すでに経験しており、チームワークも高まっていたせいか、2時間くらいで作業が終わった。
昼食は現地住民の皆さんと一緒にいただく。56度のパイチュウはきつい。ペットボトルのふたをおちょこ代わりに、4~5杯程度飲んだが、そこでギブアップ。住民の皆さんは、次から次へと口に運び、まったく平気な様子だ。「皆さんの飲みっぷりは、すごいですね!」自然に会話も弾み、楽しい時間を過ごすことができた。
昼食後、FFCNによる一般参加者への「表彰式」が行われた。今回は、FFCNが中国から一般の参加者を募集し、800名もの応募をいただいた中で、3名の方にご協力いただいた。その感謝を込めた表彰式だ。
参加にあたり皆さんには、私たちが推進する緑化活動の必要性について、中国の各地で積極的な広報活動をしていただいた。ここまでの移動も、列車や徒歩などできるだけエコな方法で来ていただいている。そして、3日間の全作業で皆さんに力を発揮していただき、全員が力を合わせることで達成することができた。
最も顕著な活躍をされたとして、優勝者に選ばれたのは曹さんという21歳の学生だった。彼は、思うところがあったようで、今回の活動後もしばらく現地に残り、緑化ネットワークの活動に参加するという。都会慣れしている彼にとって、同じ中国でもこの瓦房の地で感銘を受ける何かがあり、この地の現状をより深く探りたいと考えたのだろう。その純粋さに心引かれた。優勝、おめでとう!
中国メディアも取材に来ており、緑化活動を10年以上行っている富士フイルムの緑化活動は、ほかにはないということで、高い評価をいただいた。参加者の一人として非常にうれしく思った。
緑化ネットワークとのワークショップで、3日間を振り返る
4日目、滞在した后旗を離れる日。もう一度部屋を見渡して、あらためて思う。このように多くの村人が暮らし、旅人が普通に過ごせるホテルがある場所のすぐ近くに、砂漠が押し寄せてきている。この地球環境の急激な変化は何なのだろう。地球規模で見れば、日本とここ内蒙古は、わずかしか離れていない。きっと、自分にも何かができる。何かしなければならない。
ホテルを出て私たちは、緑化ネットワークの事務所で、ネットワークのメンバーとともに、「緑化には何が必要か」「環境のためにこれから自分ができること」をテーマとしたワークショップを行った。
日本人メンバーは、砂漠化進行を止めるために必要なものとして、「多くの人の緑化に対する興味や目標、取り組みに向けた一体感」といったソフト面を挙げた。一方、現地のスタッフは、「柵」「トラクター」といったハード面の充実が重要だと考えていた。必要な設備やものをそろえることがまだ難しい状況にあるという現実も、明らかになった。
「自分ができること」については、参加者がそれぞれ誓いを立てた。私は、「自転車通勤をしよう!」と心に決めた。日本に帰ってもこの誓いを忘れずにいたいものである。
そして、ご協力いただいた現地参加者や住民の皆さん、緑化ネットワーク、FFCNといった多くの仲間との共同作業で感じた一体感をまた味わいに、必ずまた参加しようと思う。
-
砂漠に行って、地球のことはもちろん、「働く」ということ、「食べる」ということ、「関わる」ということ、たくさん考えました。刺激的で、爽快で、充実した1週間でした。
-
現地・現物に勝るもの無し、体験すると見える世界も変わる。日本に戻って、自分が住む地域でこの体験を語ったところ、反響があったので、新たな企画を立案中です。
-
実際に体験しなければ得られないものがたくさんあり、参加して本当によかったです。定年退職するまでに、もう1回参加して私たちの植えた松の成長を見たいと思います。
-
今回で2度目の参加です。3年前に植林した障子松の成長を見て胸が熱くなりました。活動継続に意義あり。先人達の熱い想いを引き継ぎ、緑の協力隊のバトンを次につなげていこうと心を新たにしました。
-
自分で植えた木の成長と、緑化ネットワークの活動の成長もまた見届けたいと思います。次回は息子と一緒に行くことを目標にします。
-
現地の方やFFCNと一緒に作業ができたことは、言葉の壁を越えた国際交流です。これからも多くの方に参加いただき、緑化の輪を広げていきたいと思います。
-
自分で行動していくことの大切さに「気付いた」ということが自分にとっての財産で、一人でも多くの方がそういった体験をしてほしいと思います。
-
富士フイルム労働組合OBとして今回で7回目の参加になります。2002年にポプラを植林した砂漠が昨年は緑地になり、今年はそこが現地農民の皆さんにより「トウモロコシ畑」になっており、10年で今までの苦労が花開きました。今後もできる限り参加したいと思います。
-
未来に緑を残すだけでなく、人の輪も後々までつながり、広がる素晴らしい活動ができたと思います。