写真・フィルム技術を持つからこそ果たせる技術による社会・文化への貢献
きめ細かさや美しさ、長期保存に耐える信頼性など、他の記録メディアにはない多くの特長を持つマイクロフィルム。
富士フイルムグループは、フィルムならではの利点を生かして貴重な文化財・美術品の記録保存をサポートしています。
富士フイルムグループは1999年から宮内庁および丸善株式会社(現:丸善雄松堂株式会社)と共同で、同庁正倉院事務所に所蔵・保管されている「聖語蔵(しょうごぞう)経巻」全4,960巻をカラーマイクロフィルムにより複写・保存するとともに、デジタルデータ化しカラーDVD-R(CD-R)として刊行するプロジェクトを進めています。2017年までに約3,500巻の撮影を終えていますが、史料保護の観点から季節や時間が制限されることから、完了まではさらに6年を要する長期プロジェクトです。
聖語蔵経巻は東大寺の塔頭(たっちゅう)の一つである尊勝院の経蔵「聖語蔵」に伝わる仏教経典の総称で、隋・唐のものから奈良時代南北朝期までに至る約5,000巻の写経・版経からなる史料群。1893(明治26)年に経蔵とともに皇室に献納され、現在は宮内庁正倉院事務所が管理しています。仏教や歴史、国語などでの研究利用が望まれていましたが、非常に貴重なものであるため厳しい条件の下、わずかな研究者に閲覧が許されるのがようやくの状態でした。
これを広く公開するのが今回のプロジェクトで、複写に使うメディアには精細性や色の再現性、長期の保存性などから富士フイルムのカラーマイクロフィルムが選ばれました。閲覧用ソフトに富士フイルムイメージテック(現:富士フイルムイメージングシステムズ)がマイクロサービスセンター(当時)と共同開発した「EzMaper(イーゼットマッパー)」が使われたDVD-Rは、丸善株式会社(現:丸善雄松堂株式会社)より2000年の「第一期 隋・唐経篇」以降、順次刊行が続いています。
聖語蔵経巻は明治時代から、調査・修理が続けられており、その当時の記録をもとに事前に撮影対象を確認。史料に触れることができるのは事務所の専門家に限られ、担当者が撮影台まで運び撮影準備を行います。台には別途、大きさがわかるよう物差しを用意してあります。
撮影は、巻姿から始めて表紙、裏表紙、本文と進めていきます。本活動開始時は、ミニコピーカメラ S2 とカラーマイクロフィルム タイプRで撮影し、フィルムは保存用の原本とし、他用途に使うためデュープ(複製)を作り、DVD-R用のデジタル化もデュープをスキャニングして行っていました。
現在はデジタルカメラで撮影し、デジタル保管しています。
仏教の古い経典がこれだけまとまって、しかも良好な状態で保存されている例は中国にもなく、撮影保存すること自体に重要な価値がありますが、さらにDVD-Rによる刊行で仏教や国語研究などの発展に寄与することも今回のプロジェクトの大きな意義となっています。
日本文化の基礎ともいえる国語は、仏典などの解読を通し中国の高い文化を学びながら形づくられてきましたが、聖語蔵経巻まさにその過程を伝える生の史料。精細なカラー画像を使い自在に分析できる環境を研究者たちに提供することで、経典の本文に添えられた白点、白書や消し跡などから、ひらがな・カタカナや文法の成り立ちなど新たな発見が生まれると期待されています。
杉本 一樹さん
史料保護の観点から撮影は春と冬の2週間、平日9時半から15時半に限って行っています。経典1巻の撮影に1520分を要するため、1日に完了できるのは多くても24巻程度にとどまりますが、これまでに約2,100巻の撮影を終えました。聖語蔵経巻のすべてを記録するとともに、情報整理の機会となっていることも今回の事業の大きな意義だと考えています。
※2009年にいただいたコメントです。
トピックス
国立公文書館のアーカイブズ化事業に協力
国立公文書館は、国民共有の財産である貴重な公文書等を後世に伝えるという重要な役割を担っており、国の保管に関わる歴史資料として重要な公文書などの適切な保存と併せて一般への利用を図ることをその目的としています。
現在、媒体寿命が担保されたフィルムからデジタル化を行い、これらを当館のインターネット上にある、歴史を感じる多彩なコンテンツを収めた「デジタルギャラリー」で継続的に公開し、データを提供しています。
そのための作業では、資料状態の必ずしも良くないアーカイブズ資料の撮影のための高い撮影技術に加え、撮影前の資料状態の把握など、長年に渡るアーカイブズ資料に対する経験に培われた細心の注意が要求されます。
当館では、富士フイルムイメージテック(現・富士フイルムイメージングシステムズ)との「信頼」を軸にこの事業を進めることで、貴重なオリジナル資料に対する負荷を最小限にとどめ、国民の利用に供するという館本来の役割を実現しつつあります。