サステナブル調達活動のサイクル
富士フイルムグループは、サステナブル調達活動推進のための一連の活動について、「サステナブル調達推進プログラム」と位置付け、以下のように4つのステップから成るサイクルで推進しています。
各ステップにおける活動内容
(1)富士フイルムグループのCSRの考え方の周知
富士フイルムグループのCSRの考え方やお願い事項を調達先に理解・実践していただくために、行動規範や調達方針などをウェブサイトで公開するだけでなく、サプライヤー説明会にて調達方針や基準を直接説明し遵守を要請しています。さらに、行動規範を定期的に調達先に送付し、同意書をいただくことで、周知の徹底を図っています(3年に1回の周知、また行動規範などの改定時の周知を基本として実施)。
(2)調達先評価
富士フイルムグループでは、サステナビリティに関わる調達先のリスク状況や課題を把握するため、定期的にリスク診断や調達先による自己評価を実施しています。調達金額や調達品の代替可能性などから重要と判断した調達先(クリティカル・サプライヤー)やリスク管理の重点対象地域*1としている中国・アジアにある調達先を中心にこれらの評価を実施しています。また、一部のグループ会社においては、一次取引先が商社の場合には、商社の先の生産会社(生産拠点)にもセルフチェックを依頼しているほか、既存の調達先の評価に加えて、新規調達先候補選定の際にも、サステナビリティ関連リスクに関する評価を実施しています。
加えて、調達先のサステナビリティ関連リスクをより検出しやすくし、早期の初動対応につなげるため、2022年度から外部リスクスクリーニングツールの活用を開始し、サプライチェーンにおける環境、社会、ガバナンスなどの観点での法令違反の有無などについてのスクリーニングを実施しています。
(3)調達先への改善要請と支援、ならびに(4)調達先による改善活動
上記(2)のセルフチェックや日常の調達においてリスクがあると判断した調達先(ハイリスク・サプライヤー)、また、調達金額や調達品の希少性などの観点から当社事業に与える影響が大きい「最重要な調達先」に対して、個別に実地での確認を行い、改善要請や支援を実施します。中でも中国・アジアの調達先については、当社専門チームが現地でサステナビリティの取り組み状況を確認し、改善アドバイスを実施する専門訪問診断を行います。当社ではこの専門訪問診断をRBA基準による監査に準ずるものと位置付けており、この診断結果を元に調達先で改善を進め、サプライチェーン全体でのサステナビリティの向上につなげていきます。
富士フイルムグループでは、より実効性の高いサステナブル調達の実践を目指し、右図のようにレベルごとに各施策の対象となる調達先を設定しています。
レベル1ではすべての調達先を対象とし、当社グループのCSRの考え方への理解を求めます。レベル2は、調達金額や調達品の代替可能性などから重要と判断した調達先(クリティカル・サプライヤー)を対象とし、セルフチェックによる定期的なリスク診断を行います。レベル3では、セルフチェックや日常の調達においてリスクがあると判断した先(ハイリスク・サプライヤー)や、調達金額や調達品の希少性などの観点から当社事業に与える影響が大きい「最重要な調達先」などから優先的に訪問し、リスク診断および改善要請と支援を行います。加えて、外部リスクスクリーニングツールの併用により、サプライヤーのサステナビリティ関連リスクを検出し、早期初動対応につなげます。
サステナブル調達活動の概要(2023年度)
1.富士フイルムグループのCSRの考え方の周知
富士フイルムグループでは、「調達におけるお取引先へのお願い」(=「富士フイルムグループ 企業行動憲章・行動規範」)を、リスク管理重点対象である日本、中国、その他アジア地域の調達先に周知し、うち867社から同意書を回収しました。3年に1回周知を行うことをグループの基準としていますが、2023年度は中国などの一部地域において、重要な調達先を対象に前年度に引き続き周知を行ったこと、また新たにサステナブル調達活動を開始したグループ会社による調達先への周知が進んだことから、当初の目標社数300社を大幅に上回る回収数となりました。
2.調達先評価
(1)セルフチェックの実施
国内外の重要な調達先に対しセルフチェックを実施しました。2023年度は、前年度の結果を踏まえて、当社の求めるサステナビリティの取り組みに対する調達先の理解の促進を目的に、適合率が低い傾向にあった設問を中心に設問の解説の拡充などを行いました。また、セルフチェック結果の回収社数(拠点数)は、995社(1,493拠点)となりました(回答回収率96%)。なお、2023年度のセルフチェック評価結果において、児童労働、強制労働、結社の自由などに関する著しいリスクは認められませんでした。
さらに2022年度より開始した「情報セキュリティ調査」(セルフチェック)についても、同時に実施しました。サプライチェーンにおけるサイバー攻撃などが、実際に生産活動や供給に影響を及ぼす事例が報告されており、調達先のセキュリティリスクへの対策状況について実態把握を行うことが目的です。2023年度の回答回収社数は、1,064社となりました。
(2)リスクスクリーニングツールによるチェック
2022年度より利用を開始したリスクスクリーニングツールによる調達先のリスクチェックも継続しています。リスク管理重点対象である日本、中国、その他アジア地域の調達先を対象としており、2022年度の約600社から約3,000社まで登録を拡大しました。結果、当社グループの調達先に関するリスク情報を25件検知し、都度当社への影響有無、対策必要性について調達部門と協議の上、調達先に改善を求めるなどの対応を進めました。
3.調達先への改善要請と支援
(1)セルフチェックなど実施後の調達先へのフィードバック
セルフチェックや情報セキュリティ調査を実施したすべての調達先に対し、全体平均と比較したスコア(適合率)もしくは評価レベルを記載したフィードバックシートを送付しています。特に適合率が80%未満だった調達先、また対応優先度の高い課題項目において不適合があった調達先に対しては、フィードバックシート内で課題項目における改善アドバイスを添えて改善の働きかけを行いました。加えて、一部の調達先に対しては、面談などのフォローアップにより不適合設問に関する実態を直接確認し、何らかの是正が必要と判明した場合には改善を促し、その後の改善状況の確認を行っています。
2023年度は、2022年度のセルフチェックの結果を元に、44社と面談や電話、メールなどを通じたフォローアップを実施しました。調達先との対話では、セルフチェックで要請している項目について、社内での運用実態はあるものの、明文化された方針や社内規定がない実情が多く見られ、運用徹底のためには明文化が必要であることを説明しました。なお、2023年度は、前年度の面談を実施した44社中31社で適合率が改善したことを確認しています。また、前年度の面談などの機会を通じて確認した調達先による設問理解度や、そこで得た指摘・気づきを元に、2023年度のセルフチェック設問の改良を行っています。
(2)専門訪問診断
調達金額や前年度のセルフチェックの結果、また経営状態などの観点から、中国・ベトナムなどに所在する65社をリスク評価の必要性の高い調達先と特定しました。その中の50社に対し、当社グループ拠点の専門チームによる実地確認を実施しました。
訪問診断においては、2023年度も調達先の生産現場や従業員の寮施設の視察のほか、労働規約などの関連文書レビューを行いました。
診断の結果、例えば以下のような点について改善を要請し、改善状況を継続して確認しています。
訪問診断時に改善要請を行った事項の例
カテゴリー | 指摘事項 |
---|---|
労働安全衛生 | 完成品保管庫に隣接する避難路が物品によって塞がれている |
人権 | 従業員の連続勤務(連続12日間) |
環境 | 廃棄物の分別が不十分 |
企業倫理 | 社内の苦情・内部通報制度の未整備 |
なお、専門訪問診断を実施したすべての調達先について、当年度末までに重要項目における改善を確認しました。また、指摘事項の中でも改善に時間を要するものについては、改善に向けた進捗を継続的にフォローしていきます。
中国のグループ会社が実施した調達先での専門訪問診断の様子
4.教育・キャパシティビルディング
国内調達先向けのサプライヤー説明会では、サプライチェーンにおける適正な化学物質管理の重要性を伝え、調達品に関わる最新法規制動向の理解や規制物質含有/非含有の情報伝達を働きかける具体的な情報提供を行いました。また、説明会冒頭では必ずサステナビリティの重要性や当社グループのサステナブル調達の取り組みに関する説明を実施するとともに、「富士フイルムグループ 企業行動憲章・行動規範」への理解と同意書の提出を促しました。2023年度も引き続き説明会はウェビナー形式で開催を行い、106社139名が参加しました。
さらに2023年度は、リスク管理の重点地域である中国の主要生産拠点の調達先向けに、サステナブル調達に関する説明会を対面・ウェブのハイブリッド形式で開催し、直接材サプライヤーおよび業務委託先などのサプライヤー計168社、212名が参加しました。説明会では富士フイルムグループの調達方針や、中国におけるサステナブル調達活動、セルフチェックの設問解説や回答時の注意点などについて説明を実施しました。参加者アンケートでは、本説明会を通じて得たものが多かったと回答した調達先は95%となりました。
近年中国においては法規制の厳格化が進んでおり、また当社グループにとって中国は、調達額・調達先数ともに日本に次いで2番目の規模となる重要な地域であることから、今後も引き続きサステナブル調達活動の展開を強化していきます。
サステナブル調達活動実績データと数値目標(KPI)
活動分類 | 項目 | 2021年度 | 2021年度 | 2023年度 | 2024年度 目標 |
|
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目標 | 実績 | |||||
行動規範周知と 同意書回収 |
同意書回収社数 | 204社 | 733社 | 300社 | 867社 | 400社 |
サステナビリティに 関するセルフチェック |
回答回収社数、 拠点数 (回答回収率) |
368社/558拠点 (90%) |
774社/1,262拠点 (92%) |
1,000社 | 995社/1,493拠点 (96%) |
1,000社 |
適合率90%以上 の社数の率 |
77% | 70% | 90%以上 | 69% | 90%以上 | |
情報セキュリティ調査*2 | 回答回収社数 | - | 722社 | 1,200社 | 1,064社 | 1,000社 |
専門訪問診断 | 実施社数 (対計画実施率) |
33社 (62%) |
24社 (57%) |
対計画 実施率 100% |
50社 (77%) |
対計画 実施率 100% |
サステナビリティに関するセルフチェック適合率
適合率 | 評価 | 回答社比率 |
---|---|---|
90%以上 | 当社行動規範の要求レベルをほぼ満足している | 69% |
80%-89% | 改善を要する項目が一部ある | 22% |
80%未満 | 改善を要する項目について当社の支援を要する | 9% |
物流におけるサステナブル調達の取り組み
日本の物流業界では、インターネット通販の普及や、宅配需要の増加などにより、ドライバーの長時間労働や過労死、車両整備の不良による環境・安全問題が大きな社会問題となっています。
富士フイルムグループの物流業務を担う富士フイルムロジスティックスは、一次取引先である物流協力会社に対するサステナブル調達活動を2009年度から継続しています。物流協力会社にはサステナビリティに関するセルフチェックの実施を依頼し、セルフチェック適合率が90%未満の協力会社には、富士フイルムロジスティックスが訪問して不適合項目について改善アドバイスを行っています。
2023年度は112社にセルフチェックの実施を依頼し、対象会社すべてから回答を回収しました。当年度は、労働安全衛生規則の改正に伴い、施行された内容についての協力会社の理解・遵守状況を問う設問をセルフチェックに追加しました。また、前年度の適合率が90%未満の協力会社については、訪問による改善支援を実施し、指摘した事項における改善を確認済みで、その全社で2023年度のセルフチェックでの適合率の向上が見られました。
国内商品物流におけるサステナブル調達の取り組みのKPI
2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | 2024年度目標 | |
---|---|---|---|---|
サステナビリティに関する セルフチェック適合率90%以上の社数比 |
95% | 97% | 99% | 100% |
富士フイルムロジスティックスでは2022年度に異業種間連携による物流効率化に取り組んでおり、2023年度も中間拠点を設けて複数ドライバーによる輸送を行う「長距離中継輸送」を実施しました。これにより、トラックの台数や稼働時間の削減とともに、一人での長距離運転により生じるドライバーの長時間労働の抑制につながりました。
また、2020年より、日本気象協会が提供する悪天候時の輸送安全を支援する物流向けサービス「GoStopマネジメントシステム」を導入し、協力会社に対し悪天候に関する事前情報や輸送中止の判断情報を提供しています。2023年度も自然災害起因による事故の発生はありませんでした。
サプライチェーンにおける環境の取り組み
富士フイルムグループは長年、原材料の「調達」から製品の「製造」「輸送」「使用」「廃棄」に至るまで、ライフサイクル全体で事業が環境に及ぼす影響を考慮し、環境負荷低減に取り組んできました。
特に原材料調達においては、サステナブル調達の枠組みを活用し、調達先においても取り組みを推進していただくよう、連携を進めています。
グループの生産拠点におけるサステナビリティの取り組み
自社生産拠点の自己診断
ビジネスイノベーションセグメントの国内外7つの生産拠点においてCSRセルフチェックを実施し、全拠点で適合率90%以上であることを確認しました。
2023年度に実施したRBAセルフアセスメント(6拠点) においても、すべての拠点がリスク評価「Low」を維持しています。
社外からの評価
1.RBA認証取得状況
富士フイルムグループは、グローバルサプライチェーンのCSRを推進するResponsible Business Alliance(RBA)*3のVAP(Validated Assessment Program)監査を、グループの主力製造拠点において受審しています。
RBA認証取得状況
拠点名 | 国・地域 | ステータス | 有効期限 | お知らせ |
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富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ 静岡工場 | 日本 | プラチナ | 2024年 11月22日 |
富士フイルム エレクトロニクスマテリアルズ 静岡工場がRBA監査でプラチナ・ステータスを取得 |
FUJIFILM Manufacturing Shenzhen Corp. | 中国 | シルバー | 2025年 4月13日 |
|
FUJIFILM Manufacturing Hai Phong Co., Ltd. | ベトナム | プラチナ | 2025年 4月7日 |
2.EcoVadis社のサステナビリティ調査
国際的な評価機関EcoVadis社*4(本社:フランス・パリ)によるサステナビリティ調査において、富士フイルム株式会社で「ブロンズ」、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社で「ゴールド」の評価をそれぞれ獲得しています(2024年10月現在)。