富士フイルムグループは、サステナブル調達活動推進のための一連の活動について、「サステナブル調達推進プログラム」と位置付け、以下のように4つのステップから成るサイクルで推進しています。
富士フイルムグループのCSRの考え方やお願い事項を調達先に理解・実践していただくために、行動規範や調達方針などをウェブサイトで公開するだけでなく、サプライヤー説明会にて調達方針や基準を直接説明し遵守を要請しています。さらに、行動規範を定期的に調達先に送付し、同意書をいただくことで、周知の徹底を図っています(3年に1回の周知、また行動規範などの改定時の周知を基本として実施)。欧州・米州においては、同意書の取得に加え、契約締結時や発注時に行動規範を周知する活動も展開しています。
富士フイルムグループでは、サステナビリティに関わる調達先のリスク状況や課題を把握するため、定期的にリスク診断や調達先による自己評価を実施しています。調達金額や調達品の代替可能性などから重要と判断した調達先(クリティカル・サプライヤー)やリスク管理の重点対象地域*1としている中国・アジアにある調達先を中心にこれらの評価を実施しています。一次取引先が商社の場合は商社の先の生産会社に、また一次取引先が生産会社の場合はその生産拠点ごとにセルフチェックを依頼するなど評価対象を拡大しているほか、既存の調達先の評価に加えて、新規調達先候補選定の際にも、サステナビリティ関連リスクに関する評価を実施しています。
加えて、調達先のサステナビリティ関連リスクをより検出しやすくし、早期の初動対応につなげるため、2022年度から外部リスクスクリーニングツールの活用を開始し、サプライチェーンにおける環境、社会、ガバナンスなどの観点での法令違反の有無などについてのスクリーニングを実施しています。
上記(2)のセルフチェックを実施したすべての調達先に対してフィードバックシートを送付しており、特に適合率が80%未満だった調達先、また対応優先度の高い項目において不適合があった調達先に対しては、フィードバックシート内でアドバイスを添えて改善の働きかけを行っています。加えて、一部の調達先に対しては、面談等のフォローアップにより不適合項目に関する実態を直接確認し、何らかの是正が必要と判明した場合には改善を促し、その後の改善状況の確認を行っています。
さらに、セルフチェックや日常の調達においてリスクがあると判断した調達先(ハイリスク・サプライヤー)、また、調達金額や調達品の希少性などの観点から当社事業に与える影響が大きい「最重要な調達先」に対して、個別に実地での確認を行い、改善要請や支援を実施します。中でも中国・アジアの調達先については、当社専門チームが現地でサステナビリティの取り組み状況を確認し、改善アドバイスを実施する専門訪問診断を行います。当社ではこの専門訪問診断をグローバルサプライチェーンのCSRを推進するRBA*2(Responsible Business Alliance)の基準による監査に準ずるものと位置付けており、この診断結果を元に調達先で改善を進め、サプライチェーン全体でのサステナビリティの向上につなげていきます。
- *1 富士フイルムグループは、地域別環境・社会リスク情報、地域/国別法規制情報などをもとに、調達におけるサステナビリティ観点でのリスク領域を特定しています。
- *2 RBA(Responsible Business Alliance/本部:米国バージニア州)について詳細はRBAのウェブサイトをご参照ください。
富士フイルムグループでは、より実効性の高いサステナブル調達の実践を目指し、右図のようにレベルごとに各施策の対象となる調達先を設定しています。
レベル1ではすべての調達先を対象とし、当社グループのCSRの考え方への理解を求めます。レベル2は、調達金額や調達品の代替可能性などから重要と判断した調達先(クリティカル・サプライヤー)を対象とし、セルフチェックによる定期的なリスク診断を行います。レベル3では、セルフチェックや日常の調達においてリスクがあると判断した先(ハイリスク・サプライヤー)や、調達金額や調達品の希少性などの観点から当社事業に与える影響が大きい「最重要な調達先」などから優先的に訪問し、リスク診断および改善要請と支援を行います。加えて、外部リスクスクリーニングツールの併用により、サプライヤーのサステナビリティ関連リスクを検出し、早期初動対応につなげます。
富士フイルムグループでは、「調達におけるお取引先へのお願い」(=「富士フイルムグループ 企業行動憲章・行動規範」)を、リスク管理重点対象である日本、中国、その他アジア地域の調達先に周知し、うち622社から同意書を回収しました。3年に1回周知を行うことをグループの基準としていますが、2024年度は中国などの一部地域において、重要な調達先を対象に前年度に引き続き周知を行ったこと、また新たにサステナブル調達活動を開始したグループ会社による調達先への周知が進んだことから、当初の目標社数400社を大幅に上回る回収数となりました。
また、日本においては、間接材の調達先についても、取引開始時に富士フイルムグループの企業行動憲章・行動規範への理解を確認しています。
さらに欧州・米州においては、グループの企業行動憲章・行動規範をベースに、サステナビリティの観点でビジネスパートナーへの要望事項をまとめた基準書を作成し、取引先との新規契約締結・契約更改の際や発注時に周知・合意を得る活動を展開しています。そのほかにも、サプライヤー向け説明会の機会などを活用し、周知を図っています。
国内外の重要な調達先に対しセルフチェックを実施しました。2024年度は、宗教上の慣習や障がいのある労働者に対する合理的な便宜が図られているか等、一部設問を新規に追加しました。また、セルフチェック結果の回収社数(拠点数)は、1,027社(1,550拠点)となりました(回答回収率92%)。なお、2024年度のセルフチェック評価結果において、児童労働、強制労働、結社の自由などに関する著しいリスクは認められませんでした。
さらに2022年度より開始した「情報セキュリティ調査」(セルフチェック)についても、同時に実施しました。サプライチェーンにおけるサイバー攻撃などが、実際に生産活動や供給に影響を及ぼす事例が報告されており、調達先のセキュリティリスクへの対策状況について実態把握を行うことが目的です。2024年度の回答回収社数は、1,101社となりました。
2022年度より利用を開始したリスクスクリーニングツールについては、2023年度に引き続きリスク管理重点地域である日本、中国、その他アジア地域の調達先約3,000社を対象にリスクチェックを実施しています。検知したリスク情報については都度、富士フイルムホールディングスのESG推進部と調達&機器生産部とで対応を協議の上、リスク事象の内容や重大性に応じて、該当調達先と取引のある調達部門を通じて問題の是正を求める等の必要な対策を講じています。
2024年度は、富士フイルムグループの調達先に関するリスク情報を92件検知しました。いずれもグループへの供給に影響する重大な案件ではないことを確認しましたが、リスク事象が検知された調達先については継続的に注視するよう取引のある調達部門に促しました。
2024年度は2023年度のセルフチェックの結果を元に、調査を実施したすべての調達先へフィードバックシートを送付しました。加えて、特に適合率が80%未満もしくは対応優先度の高い項目において不適合があった調達先のうち、85社と面談や電話、メール等を通じたフォローアップを実施しました。フォローアップの結果、「明文化の必要性を理解していなかったが、運用徹底のために新たに人権方針や環境方針を制定した」や、「従来調達先のサステナビリティ観点でのリスク管理は出来ていなかったが、新たにリスク確認のための調査を開始した」等の具体的な改善例を確認しました。
なお2024年度は、前年度の結果を元に面談などのフォローアップを実施した85社中69社で適合率が改善したことを確認しています。
調達金額や前年度のセルフチェックの結果、また経営状態などの観点から、中国・ベトナムなどに所在する67社をリスク評価の必要性の高い調達先と特定しました。その中の66社に対し、当社グループ拠点の専門チームによる実地確認を実施しました。
訪問診断においては、2024年度も調達先の生産現場や従業員の寮施設の視察のほか、労働規約などの関連文書レビューを行いました。
診断の結果、例えば以下のような点について改善を要請し、改善状況を継続して確認しています。
| カテゴリー | 指摘事項 | 改善事例 |
|---|---|---|
| 労働安全衛生 | 配電盤が施錠管理されていない | 担当従業員に対して安全管理に関する教育を実施するととに、鍵の管理を担当従業員だけに限定する運用に変更し、施錠管理を強化 |
| 人権 | 若年労働者の保護のための制度が未整備 | 若年労働者の雇用実態は現状ないものの、若年労働者の健康、安全、道徳への配慮や、時間外労働の禁止などの保護のための制度を整備し、社内への周知を実施 |
| 環境 | 有害廃棄物倉庫の標識が最新のものに更新されていない | 最新の標機への差し替えとともに、関連法令の要求事項を定期的に確認する運用を開始 |
| 企業倫理 | 社内の苦情・内部通報制度の未整備 | 社内での苦情·内部通報制度を新たに整備するとともに、社内への問知を実施 |
なお、専門訪問診断を実施したすべての調達先について、当年度末までに重要項目における改善を確認しました。また、指摘事項の中でも改善に時間を要するものについては、改善に向けた進捗を継続的にフォローしていきます。

調達先へのヒアリングの様子

調達先の生産現場の視察の様子
国内調達先向けのサプライヤー説明会では、サプライチェーンにおける適正な化学物質管理の重要性を伝え、調達品に関わる最新法規制動向の理解や規制物質含有/非含有の情報伝達を働きかける具体的な情報提供を行いました。また、説明会冒頭では必ずサステナビリティの重要性や当社グループのサステナブル調達の取り組みに関する説明を実施するとともに、「富士フイルムグループ 企業行動憲章・行動規範」への理解と同意書の提出を促しました。2024年度も引き続き説明会はウェビナー形式で開催を行い、112社136名が参加しました。
また2023年度に引き続き、2024年度もリスク管理の重点地域である中国の主要生産拠点の調達先向けに、サステナブル調達に関する説明会を対面で開催し、業務委託先などのサプライヤー計16社、18名が参加しました。説明会では富士フイルムグループの調達方針や、中国におけるサステナブル調達活動、セルフチェックの設問解説や回答時の注意点などについて説明を実施しました。参加者アンケートでは、本説明会を通じて得たものが多かったと回答した調達先は95%となりました。
| 活動分類 | 項目 | 2022年度 | 2023年度 | 2024年度 | 2025年度 目標 |
|
|---|---|---|---|---|---|---|
| 目標 | 実績 | |||||
| 行動規範周知と 同意書回収 |
同意書回収社数 | 733社 | 867社 | 400社 | 622社 | 1,600社 |
| サステナビリティに 関するセルフチェック |
回答回収社数、 拠点数 (回答回収率) |
774社、1,262拠点 (92%) |
995社、1,493拠点 (96%) |
1,000社 | 1,027社、1,550拠点 (92%) |
1,000社 |
| 適合率90%以上 の社数の率 |
70% | 69% | 90%以上 | 71% | 90%以上 | |
| 情報セキュリティ調査 | 回答回収社数 | 722社 | 1,064社 | 1,000社 | 1,101社 | 1,000社 |
| 専門訪問診断 | 実施社数 (対計画実施率) |
24社 (57%) |
50社 (77%) |
対計画 実施率 100% |
66社 (99%) |
対計画 実施率 100% |
| 適合率 | 評価 | 回答社比率 |
|---|---|---|
| 90%以上 | 当社行動規範の要求レベルをほぼ満足している | 71% |
| 80%-89% | 改善を要する項目が一部ある | 20% |
| 80%未満 | 改善を要する項目について当社の支援を要する | 9% |
日本の物流業界では、インターネット通販の普及や、宅配需要の増加などにより、ドライバーの長時間労働や過労死、車両整備の不良による環境・安全問題が大きな社会問題となっています。
富士フイルムグループの物流業務を担う富士フイルムロジスティックスは、一次取引先である物流協力会社に対するサステナブル調達活動を2009年度から継続しています。物流協力会社にはサステナビリティに関するセルフチェックの実施を依頼し、セルフチェック適合率が90%未満の協力会社には、富士フイルムロジスティックスが訪問して不適合項目について改善アドバイスを行っています。
2024年度は114社にセルフチェックの実施を依頼し、対象会社すべてから回答を回収しました。当年度は、働き方改革関連法によりドライバーの時間外労働の上限が年間960時間に制限されたことに起因する、「2024年問題」への適正な対応を問う設問をセルフチェックに追加しました。また、前年度の適合率が90%未満の協力会社については、訪問による改善支援を実施し、指摘した事項における改善を確認済みで、その全社で2024年度のセルフチェックでの適合率の向上が見られました。
| 2022年度 | 2023年度 | 2024年度 | 2025年度目標 | |
|---|---|---|---|---|
| サステナビリティに関する セルフチェック適合率90%以上の社数比 |
97% | 99% | 100% | 100% |
富士フイルムロジスティックスでは2022年度より異業種間連携による物流効率化に取り組んでおり、2024年度も中間拠点を設けて複数ドライバーによる輸送を行う「長距離中継輸送」を実施しました。これにより、トラックの台数や稼働時間の削減とともに、一人での長距離運転により生じるドライバーの長時間労働の抑制につながりました。さらに、2024年度は一部区間において輸送ルートを見直し、これまでも導入してきたモーダルシフト化の取り組みをさらに強化することにより、「2024年問題」や乗務員不足の課題に対応し、安定した輸送手段の確保を図りました。この結果、対象の区間におけるドライバーの運転時間を60%削減しました。
また、2020年より、日本気象協会が提供する悪天候時の輸送安全を支援する物流向けサービス「GoStopマネジメントシステム」を導入し、協力会社に対し悪天候に関する事前情報や輸送中止の判断情報を提供しています。2024年度も自然災害起因による事故の発生はありませんでした。
富士フイルムグループは長年、原材料の「調達」から製品の「製造」「輸送」「使用」「廃棄」に至るまで、ライフサイクル全体で事業が環境に及ぼす影響を考慮し、環境負荷低減に取り組んできました。
特に原材料調達においては、サステナブル調達の枠組みを活用し、調達先においても取り組みを推進していただくよう、連携を進めています。
当社のGHG排出量において、調達品に起因するスコープ3カテゴリ1は全排出量の約70%を占めており、削減に向けた取り組みには調達先の理解と協力が重要です。2024年度は、スコープ3カテゴリ1の約3分の1を占める化学品原材料について、GHG排出量の算定状況、削減目標の設定有無などの調達先の実態や、排出削減にあたり課題と感じている点を把握すべく、アンケートによる調査を2023年度に引き続き実施しました。アンケートは国内外のグループ会社の調達先214社に依頼し、187社から回答を得ました(回答率90%)。調査範囲は2023年度のアンケート調査の対象である日本国内のグループ会社に加えて、一部海外グループ会社へ拡大しています。また、一次取引先が商社の場合には二次取引先のメーカーまで調査を進めています。
さらに一部の回答企業に対しては、訪問面談を通じて、実態や課題についてより詳しくヒアリングを行いました。その結果、約73%の調達先においてGHG排出量を算定済み、または2年以内に算定予定との回答を得ました。また、排出削減目標を設定済み、または2年以内に設定予定と回答した調達先は約63%でした。
一方で、スコープ1および2についての排出量算定はできているものの、スコープ3まで算定できている企業はまだ全体の45%と、課題があることが分かりました。2023年度に引き続き、今回のアンケートで得られた調達先の実排出量(一次データ)を用いて当社のスコープ3カテゴリ1を算定し、調達先における排出削減に向けた取り組みを当社のGHG排出量算定に反映させていきます。
また、2024年度はGHG排出量を算定していない調達先に対して、新たにGHG排出量算定支援プログラムを開始し、算定方法の解説動画や算定シートの提供、算定結果に基づいた効果的な削減策の提案を行っています。削減策については、当社と調達先でGHG削減に向けた設備更新を行い共同で申請することで補助金が交付される「企業間連携先進モデル支援」の活用や、スコープ2削減に向けた使用電力の最適化の提案を行っています。
ビジネスイノベーションセグメントの国内外6つの生産拠点において、グローバルサプライチェーンのCSRを推進するRBAのFacility Risk SAQを実施し、High Riskに該当した拠点はありませんでした。
富士フイルムグループは、RBAのVAP(Validated Assessment Program)監査を、グループの主力製造拠点において受審しています。
| 拠点名 | 国・地域 | ステータス | 有効期限 |
|---|---|---|---|
| FUJIFILM Manufacturing Shenzhen Corp. | 中国 | シルバー | 2027年 4月17日 |
| FUJIFILM Manufacturing Hai Phong Co., Ltd. | ベトナム | シルバー | 2027年 2月27日 |
富士フイルムグループの主要会社において、国際的な評価機関EcoVadis社*3(本社:フランス・パリ)によるサステナビリティ調査で下記の評価を獲得しています(2025年8月現在)。
- *3 EcoVadis:EcoVadis社のサステナビリティ調査は、企業の「環境」「労働・人権」「倫理」「持続可能な調達」の4テーマにおける方針や取り組みを評価します。
| 会社名 | 評価 |
|---|---|
| 富士フイルム株式会社 | ブロンズ |
| 富士フイルムビジネスイノベーション株式会社 | ゴールド |
| FUJIFILM Diosynth Biotechnologies U.S.A., Inc. (FUJIFILM Biotechnologies) | ブロンズ |
| FUJIFILM Electronic Materials France SAS | シルバー |