富士フイルムグループは、「人権の尊重」を企業が果たすべき概念として認識しています。24言語で提供する「富士フイルムグループ企業行動憲章・行動規範」で人権の尊重に対する基本的な考え方を示すとともに、国連「国際人権章典」や国連「ビジネスと人権に関する指導原則」をはじめとした人権に関する国際的な原則を支持し、事業活動における人権侵害リスクの評価と低減に必要な措置を取っていくことを宣言する「人権声明」を制定しています。
「人権声明」は、国内外グループ会社や社外ステークホルダーからさまざまなご意見・アドバイスをいただきながら策定し、富士フイルムホールディングス社長を委員長とするCSR委員会(現ESG委員会)での承認を経て2018年に導入しました。
富士フイルムグループの人権に関する重点課題とその予防・軽減策の実績は、富士フイルムホールディングスのESG委員会(委員長:代表取締役社長)で報告・議論され、取締役会に報告されます。取締役会およびESG委員会規程にも委員会における審議・決定の対象事項として、「事業活動に関連する顕著な人権課題の特定とその予防・軽減」を明記しています。
また、2023年10月には、多様な従業員が安心していきいきと働くことのできる風土醸成の取り組みを強化すべく、富士フイルムホールディングスDiverse Stories推進委員会(委員長:代表取締役社長)を設立しました。
同時に国内外の関係会社にも各社社長を委員長とするDiverse Stories推進委員会を立ち上げ、一人ひとりの個性・価値観を尊重し、安心して働くことができる環境を整えるための取り組みをグループ全体で進めています。
日常的には、当社従業員に関する人権リスクの場合は人事部、調達先や委託先構内協力企業に関する人権リスクの場合は調達部門が各々リソースを確保して対応に当たります。またM&Aや、大型投資を伴う新規事業の開始時には、広範なデューディリジェンス項目の中に人権に関するチェック項目も盛り込み、投資の適性を評価しています。
その他、監査役会室*1に対し、ESG推進部からサプライチェーンリスクマネジメントならびに人権課題に関する活動報告を月次で実施し、コーポレート・ガバナンスの観点も踏まえた意見交換を定期的に行っています。
- *1 監査役機能の充実化を図るため、監査役会の直轄に設置された監査役スタッフ部門
富士フイルムグループは、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」で示されている手順に従い、当グループが運営し、また関係するすべての事業活動を対象範囲とした人権デューデリジェンスのプロセスを定め、推進しています。
推進にあたっては、国連グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンのヒューマンライツデューデリジェンス分科会で検討した「UN Guiding Principles Reporting Framework with implementation guidance(国連指導原則 報告フレームワーク 実施要領)」における要求事項を参考にしています。
具体的には、潜在・顕在リスクの特定とそれが当社活動および当社グループのビジネスに関連したバリューチェーンのどこで発生するか、また具体的に誰のどのような人権課題が懸念されるかの特定、発生可能性と深刻さに基づいた評価、予防・軽減策の検討・実施、ステークホルダーとの対話、情報開示を行っています。
富士フイルムグループの事業活動による人権への負の影響については、富士フイルムホールディングスESG推進部が第三者機関と連携して評価を実施しています。
<2019年度~>
当社グループの事業や活動国・地域の特性に基づく潜在的な人権課題を特定し、その発生可能性と深刻さに基づき評価を行いました。潜在的な人権課題の洗い出しは、自社従業員、サプライヤーや委託先などの取引先の従業員、お客さまや消費者、地域社会といったステークホルダーごとに実施しています。その上で、当社グループの取り組み状況も踏まえ、重点的に取り組むべき人権課題として次の3点を特定しました。
- 調達先における不適切な労働環境・労働慣行
- 自社の従業員の長時間労働や差別・ハラスメント
- ヘルスケア事業における治験参加者の権利の侵害
また、これらの重点人権課題について、2020年7月、富士フイルムホールディングスの役員定例会にて認識の共有、議論を行いました。
以降、毎年重点人権課題をベースとしたリスク軽減策に取り組んできました。
潜在的な人権課題の影響評価(既存事業におけるリスクマッピング)
<2025年度~>
当社グループの事業環境の変化を踏まえた見直しが必要と判断し、2025年2月、第三者機関であるNPO法人経済人コー円卓会議日本委員会(CRT日本委員会)の支援を得て、人権声明に基づいた一連のデューデリジェンスプロセスの一環として、重点人権課題の見直しに着手しています。取り組みの詳細は、重点人権課題の項目をご覧ください。
<毎年実施>
全社重点リスクにおける人権リスクの特定
富士フイルムグループでは、事業活動を取り巻く重点リスクを毎年網羅的に抽出し、各リスクの主管部門が担当領域で想定されるあらゆるリスクを見直すなどのプロセスを経て、グループ全体での「全社重点リスク」を決定しています。その中で、人権の観点でのリスク項目も特定しています。
富士フイルムグループは創薬支援や医療機器などの提供を行う「ヘルスケア」、各産業向けに高機能材料などを提供する「エレクトロニクス」、カメラ・レンズなどを扱う「イメージング」、そして複合機やソリューションなどでお客さまの働き方革新を支援する「ビジネスイノベーション」など、多岐にわたる事業を展開しています。当社グループの重点人権課題の見直しにあたっては、多様な事業に共通した課題だけではなく、個々の事業特性を踏まえた人権課題の特定も重要です。そこで、第三者機関の支援も得て、事業セグメントごとに、【STEP 1】人権リスク評価、【STEP 2】人権影響評価の2つのプロセスで人権課題の特定を行っています。
【STEP 1】人権リスク評価は、事業拠点が所在する国/地域の人権リスクと、事業に付随する人権リスクから、潜在的な人権リスクをライツホルダー、人権指標、バリューチェーンの評価軸で評価します。
評価には主に以下の結果を活用します:
- 人権リスクに関するデスクトップリサーチ
- 補完する情報として、当該事業の関連組織の従業員による社内横断ワークショップで抽出した事業バリューチェーン上の人権リスク要素
【STEP 2】人権影響評価は、人権リスク評価で特定された潜在的人権リスクに関し、実際の影響の有無、影響の度合いを評価します。インタビューによる当事者(ライツホルダー)への直接対話を含むアプローチを実施します。
2025年度は以下の理由によりビジネスイノベーション事業の人権課題特定に取り組みました。
<選定理由>
- 当社グループの4つの事業セグメントの中で最も規模が大きく、ステークホルダーへの影響も大きい
- 複合機等の製品の部品点数が多く、かつ労働集約型の製造工程が多く存在
- 自社製造拠点ならびに調達先の多くが、人権リスクが比較的高いとされるアジアに所在
2025年度、ビジネスイノベーション事業における人権リスク評価、人権影響評価を以下のように進めました。
| 区分 | 項目 | 概要 |
|---|---|---|
| 評価対象 | バリューチェーン | 事業バリューチェーン上の各段階における影響を評価: 開発・設計-原材料調達-購買-製造-物流-販売-使用-廃棄 |
| 国・地域 | ビジネスイノベーション事業の主要事業拠点が所在する17か国/地域における影響を評価 | |
| ライツホルダー | 人権の負の影響を受ける可能性のある当事者。特に以下に対する影響を評価:
|
|
| 評価指標 | 人権指標 | 国際規範に挙げられた人権のうち、ビジネスとの関連が深い以下12の人権指標で評価: 適正賃金、適正な労働時間、差別的慣行、労働安全衛生、結社の自由、児童労働、現代奴隷、土地の権利、先住民族の権利、プライバシーの権利、消費者の安全と知る権利、資源・地域社会(廃棄に絡む人権課題) |
事業拠点が所在する国/地域の人権リスクと、事業に付随する人権リスクから、潜在的な人権リスクを評価しました。
評価にあたっては、デスクトップリサーチによる評価を中心に行い、補完する情報として、社内横断ワークショップで事業バリューチェーン上の実務に関連する具体的な人権リスク要素を整理した結果も活用しました。
| 評価方法 | 内容 |
|---|---|
| (1)カントリーリスク評価 | 国際的なリスク分析・リサーチの専門機関の人権リスクデータベースを基に国/地域別・人権指標別の人権リスクを4段階で評価 |
| (2)事業リスク評価 | 売上高、調達額、従業員数などの事業データから、事業規模による人権リスクへの影響度合いを評価。また、原材料や業務オペレーションの情報から、事業に付随する固有の人権リスクも評価。 さらに、人権課題に関連する部門の参加者による人権ワークショップを実施し、事業バリューチェーン上で発生しうる人権リスク要素を抽出 |
| (3)潜在的人権リスク評価 | (1)カントリーリスク評価と(2)事業リスク評価に基づき、潜在的な人権リスクをライツホルダー、人権指標、バリューチェーンの評価軸で特定 |
ステークホルダー/ライツホルダーの声の代替として、世界14,000超のNGOによる発信情報と、世界3,500のニュースメディアソースの情報を収集・分析し、事業バリューチェーン上におけるステークホルダー/ライツホルダーの人権への影響を評価した結果をリスクマップの形で整理しました。
事業バリューチェーン上の人権リスクマップ
| ライツホルダー | 人権への影響 | バリューチェーン | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 開発 設計 |
原材料 調達 |
加工品 購買 |
製造 | 物流 | 販売 | 使用 | 廃棄 | 全体 | ||
| 自社グループ 従業員・労働者 |
生活賃金 | ● | ● | ● | ● | |||||
| 長時間労働 | ● | ● | ● | ● | ||||||
| 職場の安全 | ● | ● | ● | ● | ||||||
| 化学物質、有害物質による健康被害 | ● | |||||||||
| 労働組合の権利 | ● | ● | ● | ● | ||||||
| 性別やマイノティの差別的慣行 | ● | ● | ● | ● | ||||||
| 移民労働者の権利 | ● | ● | ● | ● | ||||||
| 雇用における差別 | ● | ● | ● | ● | ||||||
| サプライヤー・業務委託先 従業員・労働者 |
生活賃金 | ● | ● | ● | ● | |||||
| 長時間労働 | ● | ● | ● | ● | ||||||
| 職場の安全 | ● | ● | ● | ● | ||||||
| 化学物質、有害物質による健康被害 | ● | ● | ||||||||
| 労働組合の権利 | ● | ● | ● | ● | ||||||
| 性別やマイノティの差別的慣行 | ● | ● | ● | ● | ||||||
| 移民労働者の権利 | ● | ● | ● | ● | ||||||
| 資源採取・廃棄物処理における児童労働、強制労働 | ● | ● | ||||||||
| 消費者 | 製品の安全 | ● | ||||||||
| 化学物質の使用による健康への影響 | ● | |||||||||
| 消費者のプライバシー、セキュリティ | ● | ● | ● | |||||||
| 持続的な消費 | ● | |||||||||
| 人権に配慮したマーケティング | ● | ● | ● | |||||||
| 適正で透明なラベリング | ● | ● | ● | |||||||
| 地域住民・一般市民 | 軍事や監視目的への製品・部品の使用 | ● | ● | |||||||
| 採掘・開発による土地の権利の侵害 | ● | |||||||||
| 資源開発に伴う環境汚染や生態系破壊 | ● | |||||||||
| 電機・電子機器廃棄物による環境破壊 | ● | |||||||||
| ガバナンス | サステナビリティ/人権に関するガバナンス | ● | ||||||||
| 説明責任と透明性 | ● | |||||||||
| 腐敗防止と政治的関与 | ● | |||||||||
関連組織の従業員による社内横断ワークショップを通じ、具体的な人権リスク要素を抽出しました。
今後の人権尊重の取り組みにおける各組織の主体的な参画に繋げるべく、参加者への啓発も目的の1つと位置付けて開催しました。
参加組織例:人事、広報、ESG、コンプライアンス、情報セキュリティ、生産企画管理、調達、生産拠点(日本および海外)、資源循環、物流、販売推進、カスタマーサービス、グローバル監査 など

ワークショップ当日の様子(2025年5月)

グループワークで人権リスクについて議論
デスクトップリサーチによるカントリーリスク評価・事業リスク評価、および社内横断ワークショップによる人権リスク要素の抽出に基づき、CRT Japanにて当該事業に関連性が高い潜在的人権リスクとして、以下5項目の人権リスクを特定しました。
| 潜在的人権リスク | 影響を受けるライツホルダー | 留意すべき人権指標 | 関連するバリューチェーン |
|---|---|---|---|
| 1. 原材料などサプライチェーン上流における人権リスク | サプライヤーの労働者 | 児童労働、強制労働、土地の権利、先住民族の権利、適正賃金 | 原材料調達などのサプライチェーン上流 |
| 2. サプライヤー・業務委託先労働者の人権リスク | サプライヤー・業務委託先の労働者 | 適正賃金、労働時間、差別的慣行、労働安全衛生、結社の自由、強制労働 | 加工品購買~製造~物流~販売段階の取引 |
| 3. 移民・移住労働者*2の人権リスク | 自社グループの従業員/労働者 | 適正賃金、労働時間、差別的慣行、労働安全衛生、結社の自由、強制労働 | 自社グループのオペレーション全般 |
| 4. 製品の使用段階における人権リスク | 製品・サービスの消費者・利用者、一般市民 | 消費者の安全と知る権利、プライバシーの権利 | 製品の使用段階 |
| 5. 廃棄に伴う環境汚染と人権リスク | 地域住民、一般市民 | 廃棄による地域への影響、児童労働 | 原材料調達、廃棄 |
*2 「移民・移住労働者」とは、日本国内における外国籍労働者を含む、自国・故郷を離れて就労する労働者を指します。
STEP 1で特定した5つの潜在的人権リスクより、以下の観点から2025年度の人権影響評価の対象として「3. 移民・移住労働者の人権リスク」を選定しました:
- 近年の日本国内の外国籍労働者の就労環境を取り巻く法的・社会的要請の高まり
- 事業規模
- 企業として直接的に影響力を行使できる
「3. 移民・移住労働者の人権リスク」の人権影響評価を実施するにあたり、ビジネスイノベーション事業の国内製造機能を担う富士フイルムマニュファクチャリング株式会社の主要拠点で外国人労働者が多数業務に従事している鈴鹿事業所を対象として選定しました 。
富士フイルムマニュファクチャリング株式会社 鈴鹿事業所での人権影響評価実施概要は以下のとおりです。
- 目的
現場で働く労働者との対話的プロセスを通じて、すでに起きている、あるいは将来的に起こり得る人権リスクを把握・評価し、現場の職場環境の改善を推進していく
- 実施時期
2025年10月(所要日数:3日)
- 対象者
鈴鹿事業所で働く派遣労働者17名(日本人も含む)
- インタビュー実施者
CRT日本委員会
上記に加え、派遣会社の視点を取り入れるため、インタビューは派遣労働者の雇用主である派遣会社担当者にも実施。さらに現場の悩みや課題を総合的に評価する目的で、派遣労働者が所属する部門のリーダーおよび人事総務部にもインタビューを実施しました。
- 対象者への事前アンケート調査
- 対象者の職場環境などの現場視察
- 対象者への対面インタビューによるヒアリング
人権影響評価の結果、早急に是正措置が必要である顕著な人権侵害は確認されませんでした。
鈴鹿事業所は、施設や周辺環境の設備面、また賃金や労働時間、安全な職場環境などの労働環境の運用面ともに高い水準にあり、職場での困りごとが生じた際にも現場や派遣会社にて速やかに一次対応し問題解決にあたっている状況などが確認されました。
一方で、より良い職場環境の実現に向けては、以下の点が確認されました:
- 一部のハラスメント懸念や業務配分に関する不満について、派遣労働者の立場上の遠慮や現場での解決の難しさから、声が上げにくく、問題が潜在化・長期化するリスクが見受けられた。
- 通報・相談窓口(ヘルプラインなど)については、外国籍労働者による認知が十分でないことや、日本人労働者の間で「利用により不利益を被る不安(心理的なハードル)」が存在し、実効性のある是正・苦情処理メカニズムとして、現状では十分に機能していない面があった。
これらを踏まえ、当社では通報・相談窓口の周知強化や多言語対応の拡充など、改善に向けた取り組みを進めています。具体的には、全社共通の通報・相談窓口よりも気軽に相談できる拠点内窓口について多言語(日本語・ポルトガル語)でポスターを掲示し改めて案内しました。
また、差別・ハラスメントや通報・相談窓口への理解浸透を目的とした人権教育を個別に多言語(日本語・ポルトガル語)で準備し、製造拠点の現場従業員向けに展開を開始しています。
人権教育の詳細は、「教育・啓発」の項目をご覧ください。
そのほか、就業規則の多言語化対応が一部未導入だった派遣会社への働きかけも行い、ポルトガル語版の規則が整備されたことを確認しています。

対面インタビューの様子
(2~4名のグループ形式で実施)

多言語での安全情報の掲示を確認

休憩設備が整っていることも確認
富士フイルムグループとして重点的に取り組む人権課題として特定した3点については、悪影響発生の予防・軽減のため、さまざまな取り組みを実施しています。
製品や部材の組み立て・加工を必要とする事業を展開し、多くの調達先と取引を行う富士フイルムグループにとって、調達先における不適切な労働環境・労働慣行は、重点的に取り組むべき人権課題の一つだと考えています。調達先・委託先構内協力企業への取り組みについては、主にサステナブル調達の枠組みの中で活動を推進しています。
グループの重要な調達先(クリティカル・サプライヤー)やリスク管理の重点対象地域としている日本、中国、その他アジア地域に所在する調達先を中心に、2024年度も人権・労働・環境・企業倫理などに関するセルフチェックによるリスク評価を継続して実施しました。セルフチェックに回答したすべての調達先には、フィードバックシートを送付し、特に適合率が80%未満だった調達先、あるいは人権・労働分野における対応優先度の高い項目で不適合があった調達先に対しては、フィードバックシートに改善に向けた助言を加えて改善への働きかけを行いました。
| カテゴリー | 確認事項 | セルフチェックでの不適合割合 |
|---|---|---|
| 強制労働 | 雇用時に金銭や身分証明書の原本の引き渡しを求めていないか | 1.7% |
| 児童労働 | 雇用時に身分証明書での年齢確認を実施しているか | 5.8% |
| 児童労働 | 最低雇用年齢に満たない労働者の雇用を禁止する方針があり、実行しているか | 1.5% |
| 団体交渉権 | 従業員が団体交渉に参加することを許可しているか | 3.4% |
| 労働安全衛生 | すべての建物エリアにおいて、法令に定められた火災検知/報知器が設置されているか | 0.5% |
さらに、一部の調達先に対しては、面談などのフォローアップにより不適合設問に関する実態を確認し、何らかの是正が必要と判明した場合には直接改善を促し、改善状況の確認を行っています。
例えば、「身分証明書の原本を会社の金庫に保管している」と回答した調達先に対しては、たとえ従業員の貴重品管理という善意の目的で預かったとしても、従業員本人が自由に取り出すことができない状況であれば、本人の自由な移動や退職を妨げることとなり、結果として強制労働につながる可能性があることを説明し、運用の見直しを促しています。このように、人権・労働分野における対応優先度の高い項目を中心に、取引を行っている富士フイルムグループ各社を通じて実態把握および改善に向けた働きかけを継続しています。
調達先への訪問診断実施時に人権観点でも確認し、改善要請と改善確認を行っています。
| カテゴリー | 指摘事項 | 改善事例 |
|---|---|---|
| 若年労働者 | 若年労働者の健康、安全、道徳への配慮や、時間外労働の禁止などの保護のための制度が未整備 | 若年労働者の雇用実態は現状ないものの、若年労働者の健康、安全、道徳への配慮や、時間外労働の禁止などの保護のための制度を整備し、社内への周知を実施 |
| 苦情処理 | 社内の苦情・内部通報制度の未整備 | 社内での苦情・内部通報制度を新たに整備するとともに、社内への周知を実施 |
また、サプライチェーンなどにおける現代奴隷および人身取引についても、調達先向けセルフチェックの設問内に関連項目を含めて、定期的に確認しています。
長時間労働については、毎月の所定外労働時間の推移を把握し、一定基準を超えた部門に対する注意喚起や指導を行うなど、必要な対策を継続的に行っています。
富士フイルムグループでは、多様な社員一人ひとりが能力を発揮できる会社を目指し、長時間労働の改善をはじめとした働き方の変革と、仕事と育児や介護などのライフステージを両立して働き続ける支援を実施するための取り組みとして、2014年からWSI(WorkStyle Innovation)活動に取り組んでいます。
具体的には、長時間労働の改善に向けて、従業員へ勤怠入力の周知教育を実施し、人事部がPCの起動時間と入力時刻との乖離の有無を確認するなど、適正な勤怠管理を徹底しています。また、月80時間以上の残業の原則禁止や管理職への研修などを通じて、長時間労働の抑制意識の浸透に注力しています。
今後はさらに、富士フイルムグループ全体で多様な社員が活躍し、働きがいにつながる環境づくりを目指して、WSI活動にDXを積極的に活用した取り組み(WSI×DX)を強化・推進し、日々の働き方の変革を加速させていきます。
富士フイルムグループは、「富士フイルムグループ行動規範」に、「多様な人格・個性の尊重」「差別の禁止」を掲げています。互いの人格と個性を尊重し、受け入れ、刺激し合うことで、新たな価値を生み出し、豊かな社会づくりに貢献できる強い組織となることを目指しています。活動としては、従業員向け教育・啓発を定期的に行うとともに、会社としてこれらの取り組みを重視する姿勢を従業員に継続的に発信しています。
メディカルシステムやバイオCDMOなどのヘルスケア事業は、富士フイルムグループの主要事業の一つであり、今後さらに拡大していきます。当社グループの事業拡大により影響を受ける人々が増えることを踏まえ、治験参加者に加え、製品・サービスを利用する医療関係者や患者の方々など、関係する人々の人権への配慮はさらに重要となっています。
2020年度に制定した「富士フイルムグループ グローバルヘルスケア行動規範」では、治験参加者の自己決定権、尊厳、プライバシーおよび人権を尊重することを最初に述べています。本行動規範は、富士フイルムグループの全社に周知されており、適用対象としてはヘルスケア事業に関わる全役員・従業員に加えて、当社の委託先、派遣社員、販売代理店、ヘルスケア製品・サービスの提供、販売およびサポートに関わる取引先などの関係者も含まれます。グローバルヘルスケア行動規範の基準や要求事項の尊重を要請するため、本規範を解説した「グローバルヘルスケア行動規範に関するガイドライン」も併せて社内で公開しています。
なお、ヘルスケア製品・サービスに関する苦情を受け取った場合は、速やかに関連する社内部門や関係会社などへ報告するとともに、適切に調査を行い、必要に応じて是正手段を講じます。また、必要な場合には関連する規制当局に対し、当該苦情を適切に報告します。
富士フイルムグループでは、従業員を直接雇用する際に、住民票などの公的書面による年齢確認を実施しています。2024年度も、富士フイルムグループの当社従業員において児童労働は行われていないことを確認しました。また、調達先を対象としたセルフチェックにおいて、児童/若年労働に関わる項目を設け、取り組み状況を確認しています。
各種窓口に寄せられた苦情や意見については、実態を調査した上で適宜是正を行っています。
日本において外国籍労働者に関わる人権課題が顕在化している状況を踏まえ、日本国内での直接雇用の外国籍労働者の状況調査を2019年度に開始しました。2024年度末時点で19か国・地域の207名が在籍しており、労働環境・慣行に関する問題発生の報告はありませんでした。
引き続き労働環境の実態把握を進めるとともに、今後増加が見込まれる外国籍労働者の受け入れを想定し、より良い活動事例をグループ内で共有するなどの取り組みも進めていきます。
富士フイルムグループは、「富士フイルムグループ企業行動憲章・行動規範」で人権の尊重に対する基本的な考え方を示し、グローバルの全役員・従業員に対して遵守宣言を要請しています。また「人権声明」の周知を含む教育を実施し、継続的に人権意識の向上を図っています。
| 名称 | 概要 |
|---|---|
| 企業行動憲章・行動規範教育および行動規範の遵守宣言 | グローバルでの企業行動憲章・行動規範の理解深耕とコンプライアンス教育(ハラスメント、腐敗防止などの個別トピック含む)を目的として、2024年4月に実施。対象の99.6%にあたる83,610名が受講。 |
| 「ビジネスと人権」基礎研修 | 【日本国内】「ビジネスと人権」を主題とした基礎研修(eラーニング)を2024年11~12月に実施。日本国内全役員・従業員の97.4%にあたる47,270名が受講。 |
| 【日本国内】新卒/キャリア入社者を対象としたeラーニングによる「ビジネスと人権」基礎研修を2025年2月より開始。2025年3月時点で213名が受講。 | |
| 【中国】「ビジネスと人権」基礎研修を2024年9~12月に中国地域にて初めて実施。当年度対象拠点の2,959名が受講。 | |
| 情報セキュリティ教育(個人情報保護など含む) | グローバルで全役員・従業員が情報セキュリティのルールを正確に学び、機密情報の漏洩を防止することを目的として推進。日本国内では2025年1~2月に実施し、対象の98.4%にあたる47,147名が受講。 |
| ヘルスケア行動規範教育 | ヘルスケア事業に関わる行動規範および法令を学び、違反を防止することを目的として2024年10~11月に実施。日本国内のヘルスケア事業に従事する全役員・従業員の97.1%にあたる13,684名が受講。 |
| CSR研修(人権課題含む) | 2024年度の国内新任役職者および新入社員を対象に実施。それぞれ245名、1,010名が受講。 |
グローバルでの「ビジネスと人権」の教育・啓発の企画にあたっては、各地域で人権課題や社会情勢などが異なることを踏まえ、2023年度に欧州、米州、中国、アジアの各地域統括会社社長、ならびに人事、サステナビリティ、コンプライアンスなどの責任者らとの対話から開始しました。各地域における人権に関する教育・啓発の取り組み状況や課題を把握した上で、「ビジネスと人権」に関する基本理解はどの地域でも必須であること、ただし教育や啓発は各地域に適した形で展開することなどを確認し、2024年度より各地域で具体的な取り組みを進めています。
また、近年、富士フイルムグループではM&Aも増加しており、買収先企業に対する教育も行っています。腐敗防止を含むコンプライアンスについての事前評価(デューデリジェンス)を行い、買収後速やかに富士フイルムグループ企業行動憲章・行動規範の導入・教育を実施して、人権尊重の方針を含む富士フイルムグループの企業としての理念の浸透と理解を図っています。
前述の「役員・従業員教育」に加え、人権課題に関して調達・購買部門や法務・コンプライアンス部門など、社内関係部署への説明、意見交換を実施しました。また、調達先への教育・啓発も国内外で実施しています。詳細は下記関連資料・データをご覧ください。
人権尊重に向けた各種取り組みについては、サステナビリティレポート、統合報告書や公式ウェブサイトなどを通じて情報を開示しています。またお客さまや投資家、ESG評価機関、NGO、メディアなどから要請がある調査・問い合わせへの対応を通じて得た気づきを、当社活動の改善に生かしています。
富士フイルムグループでは、英国現代奴隷法(Modern Slavery Act 2015)、オーストラリア現代奴隷法(Modern Slavery Act 2018)、およびカナダ サプライチェーンにおける強制労働・児童労働の防止などに関する法律に基づき、ステートメントを公表しています。
富士フイルムグループは「富士フイルムグループ行動規範」の第一章で「人権の尊重」を掲げており、同章に記載された項目に対する違反や権利侵害が懸念される場合には、当社グループの従業員は、複数のホットラインを提供している内部通報制度を利用して是正・救済を求めることができます。また、社外のステークホルダーに対しては、公式サイト上で意見収集の窓口を設置しているほか、外部プラットフォーム経由でも声を受け付けています。
富士フイルムグループでは、2種類の内部通報制度を整備しています。一つは、日常業務で起こる人間関係やコンプライアンス上の疑問など、さまざまな問題を通報できる国内または地域本社の窓口です。もう一つは、会社に重大な影響を及ぼす不正や法令違反について、国内外の全従業員が直接、富士フイルムホールディングスのESG推進部内のコンプライアンス部門に通報可能な窓口(日本語、英語をはじめとする全24言語対応)です。その他、各地域で使用される言語に対応したウェブサイトのフォームを設置し、グループ外からの通報も受け付けています。
富士フイルムグループでは、お取引先さまからのご相談や苦情などを含むサプライチェーンに関するご指摘について、「サステナビリティに関するお問い合わせ」ページにて受け付けています。
富士フイルムグループは、2024年6月より一般社団法人ビジネスと人権対話救済機構(JaCER)*3に正会員として加盟しています。JaCERの通報フォームより、富士フイルムグループのサプライチェーンにおけるあらゆるステークホルダーを対象に、人権の侵害が疑われる案件に対する通報を受け付けています。
- *3 JaCERは、非司法的な苦情処理プラットフォームである「対話救済プラットフォーム」を提供し、専門的な立場から会員企業の苦情処理の支援・推進を目指す組織です。
富士フイルムグループは、JaCERが提供する「対話救済プラットフォーム」を活用することで、UNGPが求める公平性、透明性の担保を強化するとともに、広範なステークホルダー(地域社会、顧客、直接的・間接的な取引先を含む)から人権に関する苦情・相談を受け付ける窓口を運用しています。
受け付けた通報事案については、JaCERを通じ専門家の助言を受けながら、中立公正な事実確認を行い、適切な是正措置を行います。JaCERを通じて受けた通報の対応結果および進捗は、匿名性に配慮された形でJaCERサイト上のグリーバンスリストでも公開されます。
なお、当社グループとしてJaCERを活用し、特に通報受付の強化に取り組むのは、以下のようなサプライチェーン上で起こり得る人権侵害です:
- 自然由来の原材料の採集/採掘現場における強制労働や児童労働(紛争鉱物問題含む)
- 事業開発に伴う原住民の生活への悪影響
- 有害物質の排出による周辺住民への健康被害
- 製造現場での安全管理の不備による労働災害
- 労働者の不当な解雇や給与未払い
- *4 被通報者(企業含む)と直接的/間接的に取引関係にあるなど、富士フイルムグループ内において通報事案に関係のある部門
2024年度の通報および改善対応の実例としては、以下のとおりです。
| 通報者 | 事案 | 対応 |
|---|---|---|
| サプライヤー従業員 | 2025年3月、アジアに所在する当社グループ会社と取引のあるサプライヤーで勤務する従業員より、「トイレ利用と水分補給の時間が1日15分以内と制限されており、超過すると罰金の扱いを受ける」と当社グループ会社の外部向け通報窓口(メール)を通じて匿名で通報があった。 | 通報対応部門にてサプライヤーへの現地訪問などを通じ、通報内容が事実と確認。匿名通報者に配慮した形でサプライヤーの経営層とも対話し、このような制度は従業員の人権侵害(強制労働)の恐れがあることを説明。制度改定ならびに改定に関する従業員への周知、加えて匿名通報者が不利益を被ることのないよう配慮を要請した。その後、約1か月後に制度改定と従業員への周知が行われたことを確認した。 |
富士フイルムホールディングスは、人権、労働、環境、腐敗防止を4つの重点分野とする「国連グローバル・コンパクト」に署名しています。日本国内では、参加企業が関心のあるテーマ別に集まり議論や情報交換を行う分科会のうち、人権に関連するものとしては、ヒューマンライツデューディリジェンス分科会、サプライチェーン分科会、人権教育分科会の活動に参加しています。
富士フイルムホールディングスは、国連開発計画(UNDP)が主催する「ビジネスと人権アカデミー」のプログラムに参加しました(2023年2月27~28日)。本アカデミーは、企業による人権デューデリジェンスの実施や責任あるグローバルサプライチェーンの実現に向け貢献する日本のビジネスアクターを支援する目的で、UNDPが日本政府と協力して17か国の日本企業とその関連会社、サプライヤー、パートナー向けに実施しているものです。
その後も当社は、東京で開催された同アカデミー参加企業向けの人権ダイアログに継続して参加しています(第1回2023年8月23日、第2回2024年1月19日、第3回2025年2月6日)。ビジネスと人権に関する国内外の第一人者や専門家から人権デューデリジェンスに関する法律や動向、実践的な適用方法などについて学ぶとともに、ほかの参加企業との議論を通じて当社の取り組みを振り返りました。
富士フイルムホールディングスは、CRTが事務局の「ニッポンCSRコンソーシアム」が2012年から開催している「ステークホルダー・エンゲージメントプログラム(SHE)*6」に参加しています。NGO/NPO、学識有識者、ほかの企業などと「国連:ビジネスと人権に関する指導原則」で求められる人権デュー・ディリジェンスや業界ごとの人権課題について討議しています。
- *5 経済人コー円卓会議日本委員会
- *6 CRTステークホルダー・エンゲージメントプログラム(SHE)
富士フイルムでは、生命科学に関わる研究・事業を行うにあたり、個人情報保護、倫理面および科学面を含め総合的に実施の妥当性を審査するため、外部有識者を入れた生命科学倫理審査委員会を設置し、審査結果をもとに研究開発および関連事業を適正に推進しています。審査の対象は、ヒト由来の組織を用いた遺伝子解析研究、疫学研究、臨床研究、個人遺伝情報の取り扱いと関連業務です。例えば、治験に関しては、治験参加者に参加による不利益が発生することがないように、治験参加者に代わり外部有識者が当社の治験計画をチェックしています。
富士フイルムグループは地域社会の一員として、当社の環境保全活動について情報公開を行うとともに、「環境対話集会」などの形で地域住民の方々から意見をいただくための活動を続けています。今後も事業場の環境活動をさらに強化するとともに、社外への継続的な情報公開・発信を積極的に行っていきます。
2024年1月、当社創立90周年を機に、富士フイルムグループの社会における存在意義を示すパーパス「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」を制定しました。制定にあたっては、部門横断型のプロジェクトを立ち上げ、富士フイルムグループの強み、DNA、進むべき方向性などについて、国内外の経営層から現場従業員までインタビューを実施し、社外の有識者にも意見をヒアリングしました。
パーパス制定以降、代表取締役社長をはじめとする経営層と従業員との対話を継続的に実施しています。