富士フイルムグループは、「人権の尊重」を企業が果たすべき概念として認識しています。24言語で提供する「富士フイルムグループ企業行動憲章・行動規範」で人権の尊重に対する基本的な考え方を示すとともに、国連「国際人権章典」や国連「ビジネスと人権に関する指導原則」をはじめとした人権に関する国際的な原則を支持し、事業活動における人権侵害リスクの評価と低減に必要な措置を取っていくことを宣言する「人権声明」を制定しています。
「人権声明」は、国内外グループ会社や社外ステークホルダーからさまざまなご意見・アドバイスをいただきながら策定し、富士フイルムホールディングス社長を委員長とするCSR委員会(現ESG委員会)での承認を経て2018年に導入しました。
富士フイルムグループの人権に関する重点課題とその予防・軽減策の実績は、富士フイルムホールディングスのESG委員会(委員長:代表取締役社長)で報告・議論され、取締役会に報告されます。ESG委員会規程にも委員会における審議・決定の対象事項として「事業活動に関連する顕著な人権課題の特定とその予防・軽減」を明記しています。
日常的には、自社従業員に関する人権リスクの場合は人事部、調達先や委託先構内協力企業に関する人権リスクの場合は調達部門が各々リソースを確保して対応に当たります。またM&Aや、大型投資を伴う新規事業の開始時には、広範なデューディリジェンス項目の中に人権に関するチェック項目も盛り込み、投資の適性を評価しています。
富士フイルムグループは、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」で示されている手順に従い、当グループが運営し、また関係するすべての事業活動を対象範囲とした人権デューデリジェンスのプロセスを定め、推進しています。
推進にあたっては、国連グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンのヒューマンライツデューデリジェンス分科会で検討した「UN Guiding Principles Reporting Framework with implementation guidance(国連指導原則 報告フレームワーク 実施要領)」における要求事項を参考にしています。
具体的には、潜在・顕在リスクの特定とそれが自社活動及び当社グループのビジネスに関連したバリューチェーンのどこで発生するか、また具体的に誰のどのような人権課題が懸念されるかの特定、発生可能性と深刻さに基づいた評価、予防・軽減策の検討・実施、ステークホルダーとの対話、情報開示を行っています。
人権への影響の評価はリスクマッピングの形を取り、定期的にレビューを行っています。
なお、富士フイルムグループでは、事業活動を取り巻く全社重点リスクについて毎年ESG委員会で審議・承認していますが、これらの見直しにあたっては、人権の観点でも確認しています。2023年度の全社重点リスクマップ策定においても、人権と関連のある課題を明確にしました。
2019年度に、当社の事業や活動国の特性に基づく潜在的な人権課題を改めて洗い出し、その発生可能性と深刻さに基づき再評価を行いました。その結果を受け、重点的に取り組むべき人権課題として次の3点を特定し、2020年7月、富士フイルムホールディングスの役員定例会にて認識の共有、議論を行いました。
以降、定期的にレビューを行いながら、これら重点課題への活動を継続しています。
(1)調達先における不適切な労働環境・労働慣行
(2)自社の従業員の長時間労働や差別・ハラスメント
(3)ヘルスケア事業における治験参加者の権利の侵害
「富士フイルムグループ行動規範」では、第一章で「人権の尊重」を掲げており、同章に記載された項目に対する違反や権利侵害が懸念される場合には、当社グループの従業員は、内部通報制度を利用して是正・救済を求めることができます。当社グループの内部通報制度における通報先は、(1)各社もしくは地域レベル、(2)全グループレベル、の2段階で構成され、いずれの通報先でも相談者の匿名性が確保されるとともに、相談したことを理由に、通報した従業員が不利な扱いを受けることはありません。
富士フイルムグループでは、お取引先さまからのご相談や苦情などを含むサプライチェーンに関するご指摘について、「サステナビリティに関するお問い合わせ」ページにて受け付けています。
富士フイルムグループは、2024年6月より一般社団法人ビジネスと人権対話救済機構(JaCER)*1に正会員として加盟しています。JaCERの通報フォームより、富士フイルムグループのサプライチェーンにおけるあらゆるステークホルダーを対象に、人権の侵害が疑われる案件に対する通報を受け付けています。
従業員の声を収集する仕組みの一つとして、富士フイルムグループ全従業員を対象とした「富士フイルムグループ従業員エンゲージメント調査」を2022年度より開始しました。本調査は、従来コンプライアンスやブランドマネジメントなど、テーマごとに実施していた従業員の意識調査を集約し、かつグローバルで統一して実施することで、さまざまな観点で当社グループ従業員の成長と課題を見える化することを目的にしたものです。2023年度以降も毎年定期的に実施していくことで、従業員に関わる人権課題の特定と改善にもつなげていきます。
富士フイルムグループでは、英国現代奴隷法(Modern Slavery Act 2015)およびオーストラリア現代奴隷法(Modern Slavery Act 2018)に基づき、ステートメントを公表しています。
富士フイルムグループでは、グローバルの全役員・従業員に対して「富士フイルムグループ企業行動憲章・行動規範」の順守宣言を求め、「人権声明」の周知を含む教育を実施しています。加えて、重点的に取り組む人権課題に関する教育も行っています。
調達先に活動に取り組んでいただくためには、当社グループの調達業務に従事する従業員自身もその重要性を認識している必要があります。社内で定期的に開催される調達会議等ではサステナブル調達の活動報告と課題共有の場を設け、その中で人権尊重の取り組みの重要性を促しています。
自社従業員に関する人権課題については、「富士フイルムグループ企業行動憲章・行動規範」の周知・教育に加え、新入社員研修や新任役職者研修などの階層別教育の中で従業員への注意喚起を行っています。特に新任役職者研修では、長時間労働の防止やメンタルヘルス対策を含む労務管理全般およびハラスメントなどに関する内容を充実させています。
長時間労働については、毎月の所定外労働時間の推移を把握し、一定基準を超えた部門に対する注意喚起や指導を行うなど、必要な対策を継続的に行っています。ハラスメントについては、通常の研修に加え、各社・各部門の状況に応じた柔軟な施策を実施しています。
2020年度に制定した「富士フイルムグループ グローバルヘルスケア行動規範」では、治験参加者の自己決定権、尊厳、プライバシーおよび人権を尊重することを最初に述べています。
本行動規範は、富士フイルムグループの全社に周知されており、適用対象としてはヘルスケア事業に関わる全役員・従業員に加えて、当社の委託先、派遣社員、販売代理店、ヘルスケア製品・サービスの提供、販売およびサポートに関わる取引先などの関係者も含まれます。グローバルヘルスケア行動規範の基準や要求事項の尊重を要請するため、本規範を解説した「グローバルヘルスケア行動規範に関するガイドライン」もあわせて社内で公開しています。グローバルヘルスケア行動規範の制定初年度となった2020年度には、メディカルシステム事業、医薬品事業などのヘルスケア事業に従事する国内の従業員約3,500人に対し「ヘルスケアコンプライアンス講習会」を実施し、グローバル従業員向けには基本研修をeラーニングにて約20,000人に展開しました。
以降も、ヘルスケア事業に関わる全役員・従業員を対象に、定期的な教育を行っています。
富士フイルムホールディングスは、人権、労働、環境、腐敗防止を4つの重点分野とする「国連グローバル・コンパクト」に署名しています。日本国内では、参加企業が関心のあるテーマ別に集まり議論や情報交換を行う分科会のうち、人権に関連するものとしては、ヒューマンライツデューディリジェンス分科会、サプライチェーン分科会、人権教育分科会の活動に参加しています。
富士フイルムホールディングスは、CRTが事務局の「ニッポンCSRコンソーシアム」が2012年から開催している「ステークホルダー・エンゲージメントプログラム(SHE)*2」に参加しています。NGO/NPO、学識有識者、他の企業等と「国連:ビジネスと人権に関する指導原則」で求められる人権デュー・ディリジェンスや業界ごとの人権課題について討議しています。