ネパールでは、人口10万人当たりの罹患者数が200人を超えており、結核終息に向けた取り組みが社会課題の一つとなっています。富士フイルムグループは、結核対策の推進団体への支援を通じて検診機会の拡大に貢献しています。
ネパールの基礎データ
- 人口 : 3,054万7,580人
- 面積 : 14.7万km2
- 首都 : カトマンズ
結核に関するデータ
ネパールは、人口に占める罹患者数の割合が世界的にも高水準で推移しています。
- 年間罹患者数 : 約6万9,000人
- 人口10万人当たりの罹患者数 : 229人
同国の調査では罹患者の約半数が未発見との推計もあり、早期検診に基づく重症化リスクの低減や蔓延防止が喫緊の課題となっています。
富士フイルムグループの取り組み
ネパール政府は、胸部X線撮影を用い、結核罹患の可能性がある人々に対して、重症化する前に先手で検診を行う積極的症例探索(ACF)に注力する方針を掲げています。
こうした動きを踏まえ、公益財団法人結核予防会(JATA)は、現地NGOのJapan-Nepal Health and Tuberculosis Research Association(JANTRA)と連携し、外務省の支援により、首都カトマンズの8つの地域を対象にAFCプロジェクトを推進しています。富士フイルムグループは、このプロジェクトに対して、小型かつ軽量で持ち運びがしやすい携帯型X線撮影装置と、AI技術を用いて開発された診断支援ソフトウェアを提供しています。
対象地域は、いずれも低所得者の居住区、工場、寺院、高齢者施設などが多く、特に罹患のリスクが高いとされていています。プロジェクトでは、UHC(都市部保健クリニック)のスタッフや地域の保健ボランティアの協力を得ながら、1時間当たり25~50人、1日当たり150~200人の住民に対して胸部X線撮影を実施。罹患が疑われる被検者については喀痰を採取し、WHOが推奨するTB-LAMPとGeneXpertによる細菌検査を行っています。
2022年7月から2023年8月にかけて15,028人に対して検診を行った結果、全体の1%に相当する151人が結核と診断*1されました。その結果を踏まえてすべての患者に対して、適切な治療につなげるため最寄りのUHCを紹介しました。
カントリー・ディレクター
Ram Sharan Gopaliさん
私は25年にわたり、発展途上国における結核問題に強い関心を持ち、地域社会に焦点を当てた対策に一貫して取り組んできました。結核のリスクにさらされながらも、必要な支援を得られていない地域の人々を、適切な支援ネットワークに結び付けることに力を注いでいます。その意味において胸部X線撮影による住民検診は、結核患者を早期の治療につなげるための確かな橋渡し役を担えると確信しています。
プロジェクト・ディレクター
下内 昭医師
私は、日本で最も結核罹患率の高い都市貧困地域を対象とした結核対策プログラムに長年携わり、胸部X線撮影を用いた積極的症例探索(ACF)で成果を上げることができました。結核の高蔓延という厳しい状況に置かれているネパールでも、同様の方式による検診プロジェクトに参画できることをうれしく思います。近い将来、首都カトマンズにおけるACFの効果が実証されることを願っています。成功の鍵は、新たな技術の導入とACFに対する地域社会の理解および支援にあると考えています。
オペレーション・マネージャー
Rabindra Dhoj Joshiさん
JANTRAは2008年の設立以来、都市部や農村部の結核対策プログラムで優れた実績を残してきました。結核患者の支援を常に第一に考え、周辺地域や草の根レベルの情報を基に活動を展開しています。結核に対する診断の遅れや患者の見逃しは、ネパールにおける大きな社会課題です。私たちは、デジタル方式の胸部X線撮影やTB-LAMPなどの細菌検査を用いて積極的に症例を発見する、カトマンズのACFプログラムへの支援を通じて課題解決に貢献できると信じています。今後、ネパール国内の他地域でも、このような革新的かつ効率的な取り組みを進めていきたいと思っています。