CSR活動報告

世界での結核撲滅に向けた取り組み

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富士フイルムグループでは、開発途上国を中心に世界的な社会課題となっている結核撲滅に向けて、公的機関や民間団体などと連携しながら、「検診」を軸にした取り組みを行っています。

富士フイルムグループの結核撲滅にかける思い

[画像]富士フイルムホールディングス 代表取締役社長・CEO 後藤 禎一

富士フイルムホールディングス
代表取締役社長・CEO
後藤 禎一

富士フイルムグループは「事業を通じて社会課題の解決に貢献する」という使命を果たすべく、事業活動を進めています。近年、特にヘルスケア領域に力を入れ、2030年度に向けたCSR計画「Sustainable Value Plan 2030(SVP2030)」の重点課題の一つ「健康」の中で、「医療サービスへのアクセス向上」「疾病の早期発見への貢献」を目標に掲げ、人々が健康に暮らす上で欠かせない、病気の「予防」「診断」「治療」に貢献する製品・サービスを幅広く提供する「トータルヘルスケアカンパニー」を目指しています。

富士フイルムグループは近年、「結核」の撲滅に向け注力してきました。結核はエイズ、マラリアと並び「世界三大感染症」とされており、2015年に国連総会で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals)の目標3「すべての人に健康と福祉を」においても、「2030年までにエイズ、結核、マラリアおよび顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶する」ことが目標に掲げられています。

結核による死亡者数は、全世界で年間約150万人に上るとされています。これは新型コロナウイルスを除く感染症の中で最も多い水準です。特にアジアやアフリカなどにおける開発途上国では、医療サービスへのアクセスが十分に整備されていないことなどを背景に、多くの人々が「感染」や「重症化」の高いリスクにさらされています。こうした社会課題を解決し、一人でも多くの人の命が救われるよう、富士フイルムグループが取り組みを強化しているのが、小型の携帯型X線撮影装置の提供を通じた、開発途上国における結核検診の支援活動です。

私自身、長年にわたるアジア各国での駐在、さらにはメディカルシステム事業に携わってきた経験から、人々の健康に寄与するイノベーティブな製品・サービスを迅速かつグローバルに提供することの重要性を実感してきました。富士フイルムグループは結核撲滅に向け、今後もさらに活動を拡大していきます。ぜひ、当社の活動にご期待ください。

結核とは?

結核菌が肺に入ることで感染し、発病した人の咳などを介して伝播する感染症です。発症初期は咳や痰、発熱など風邪によく似た症状が現れ、重症化すると呼吸困難などを引き起こす場合があります。結核に感染すると主に肺に炎症を起こすため、X線撮影で早期に状態を把握し、適切な治療につなげることが治癒の可能性を高めます。

結核は、世界三大感染症*1の一つであり、感染力の強さと、診断・治療にかかる医療費の大きさなどから、社会・経済への影響度が極めて高い疾病です。全世界で年間1,000万人強が新規に感染し、このうち約150万人が死亡しているとされています。特にアジアやアフリカなどにおける開発途上国の結核罹患者は世界全体の約9割を占め*2、全世界の年間新規罹患者のうちおよそ4割に相当する約400万人が未発見(潜在的な罹患者)といわれています。感染拡大の抑制や重症化リスクの低減のためには、スクリーニング検査で早期に罹患者を把握することが非常に重要です。

  • *1 結核、エイズ、マラリア。
  • *2 世界保健機関(WHO)「GLOBAL TUBERCLUOSIS REPORT 2020」から引用。

結核診断に必要な検査

咳や痰など、結核を疑う症状があって医療機関を受診した場合、まず、胸部画像検査(X線・CT)で肺に病変があるかを調べます。そこで異常がみられると、喀痰(かくたん)*3を採取して結核の検査を行い、結核菌の存在が証明されると肺結核と診断されます。

  • *3 喀痰:いわゆる「痰(たん)」のこと。人間ののどは、気道が乾くとウイルスなどに感染しやすくなるため、いつでも濡れた状態にしておくために分泌液が出ています。この分泌物はウイルスや細菌、異物などが気道に入ると量が増え、病原体をくるんで外に押し出しやすくしています。分泌液にくるまれた病原体などが口から外へ排出されるものが喀痰です。
図1 結核診断の流れ(肺結核の典型例)
[画像]図1 結核診断の流れ(肺結核の典型例)
  • * 神奈川県衛生研究所*4のサイトを参考に記載。
*4 神奈川県衛生研究所

神奈川県(日本)にある総合衛生試験機関。感染症の予防を含む、健康関連の研究課題の調査研究、試験検査などを実施している。 

世界の結核蔓延状況

アジアやアフリカなどにおける開発途上国の罹患率は、それ以外の国々と比べて総じて高く、一部の国々では「人口10万人当たり年間500人以上」と極めて高いレベルにあります。ちなみに日本も近年まで「中蔓延国」とされていましたが、2021年の統計において、「年間の新規罹患者数が人口10万人当たり10人未満」というWHOの基準を初めて満たし、現在は「低蔓延国」と位置付けられています*5

  • *5 厚生労働省「2021年 結核登録者情報調査年報集計結果」から引用。
人口10万人当たりの年間国別結核罹患者数*6
[画像]人口10万人当たりの年間国別結核罹患者数
結核罹患者数の上位国*6
  国名 世界全体の
新規罹患者数に占める割合
1 インド 28.0% 
2 インドネシア 9.2% 
3 中国 7.4% 
4 フィリピン 7.0% 
5 パキスタン 5.8% 
6 ナイジェリア 4.4% 
7 バングラデシュ 3.6% 
8 コンゴ民主共和国 2.9% 

 

*6 WHO「GLOBAL TUBERCLUOSIS REPORT 2022」から引用

開発途上国における結核医療の課題

開発途上国では、医療機関が不足していることに加え、交通インフラなどが十分に整備されていない場合が多く、特に都市部以外に暮らす人たちは検査や治療へのアクセスが制限されています。医療現場では検査機材が不足しており、診断技術・知見も不十分な場合もあり、仮に検査を受けられたとしても、正しい診断がなされず、病気が見逃され適切な治療につながらないケースもあります。

また、結核は「早期の発見・治療で治癒が可能な病気」ですが、必ずしもそうした認識が広まっていないことも課題の一つです。

医療アクセスの未整備
[画像]医療アクセスの未整備
診断技術・知見が不十分
[画像]診断技術・知見が不十分
「検診文化」が未定着
[画像]「検診文化」が未定着
  • * Stop TB 「The Missing TB Millions」から引用。

富士フイルムグループの結核検診拡大に向けた取り組み

富士フイルムグループでは、小型・軽量で持ち運びがしやすく、操作も簡単な携帯型X線撮影装置を製品化しています。本装置を活用することで、開発途上国の、特に山間部や離島などの僻地に住む人々に結核検診の機会を届けられると考えています。

本装置は、2019年の「第7回アフリカ開発会議(TICAD7)」の併催イベント「日本・アフリカビジネスフォーラム」で各国首脳・保健省大臣から、開発途上国での結核検診用X線装置として注目されました。その後、WHOとともに世界的な結核対策を行っている「Stop TB partnership」*7の「TB Reachプログラム」*8などを通して、パキスタン、ザンビア、ベトナム、アゼルバイジャンなどで本装置を活用した結核検診の実証実験を行いました。

その結果、本装置の結核検診における有効性・有用性が認められ、2021年にStop TB Partnershipより新たな結核検診手段として推奨されることとなりました。さらにWHOは、専門医が少なく人的リソースが足りない国では、胸部X線画像にAI技術を用いてその場で結核感染疑い者を見つけることを推奨しています。当社はAI技術を活用したアプリケーションを提供する事で、撮影したその場で解析結果を確認することを可能にしています。

富士フイルムグループではこれらの実績を踏まえ、WHOをはじめとした公的機関、民間の支援団体などと連携しながら、開発途上国において、本装置の提供を通じた結核検診の拡大をサポートしています。

今後も世界各地での取り組み事例を順次ご紹介しますので、ご期待ください。

  • *7 2001年にスイス・ジュネーブでWHOの傘下に設立された組織。さまざまなパートナーと協働で結核対策を行う連携機関、マルチセクター・パートナーシップ(連合体)。
  • *8 結核関連のサービスが行き届かない国や地域の人々を対象に、検診や治療などのサービスを届ける事を目的とした活動。

当社の携帯型X線撮影装置および関連機器

携帯型X線撮影装置
[画像]携帯型X線撮影装置
カセッテDR
[画像]カセッテDR
小型拡張ユニット
[画像]小型拡張ユニット
モバイルコンソール
[画像]モバイルコンソール